神奈川県鎌倉市「あさくさ食堂」

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■鎌倉なのに『あさくさ』、その理由とは?

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国際観光都市・鎌倉ということで、メニューにも英語訳が。ご主人も英語で応対されたり、食堂の味を介した異文化コミュニケーションが盛んに交わされています。

「ウチの初代の義春(よしはる)は、長野は下諏訪の農家の次男坊で、西那須に移ってから出征をしました。生活環境もあって高等教育が受けられなかったのですが、勉学に打ち込む姿勢は実直で、熱しやすく怒りっぽい。そして情に熱い人でした」

日露戦争に出征し調理係に従事した義春さん。日本に戻ってからは、洋食の職人として一本立ちしようと浅草の界隈で研鑽を積み、田原町に自らの店を構えました。

ところが、そこに襲ってきたのが関東大震災。疎開生活を余儀なくされた義春さんは、弟さんが生活をしていた鎌倉の地へ。かつて「松林だった」という現在の場所に食堂を開き、再び暖簾を掲げたのです。

「食堂の屋号が『あさくさ』なのは、当時は他の地域から来た人を地名で呼ぶことが多く、その流れで定着したものなんです」

当時から今に残る名物料理。その一つが上ロースかつ。

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「初代には子供の頃から調理を仕込まれたのですが、カツの揚げ方も10代後半ぐらいには教わっていました」

分厚い豚ロースにパン粉をつけて、熱くたぎる純ラードでじっくり揚げるので「一つ作るのに10分ぐらいかかってしまうんです」という一品。うっすらとピンク色が残る鮮やかな肉の色と、衣の香ばしい香りが食欲をそそります。

「最初の一口は岩塩で食べるのをオススメしています」という言葉に従いシンプルに頬張れば、ハリのある赤身からにじみ出すエキスと、重厚な軽やかな衣が織りなすコンビネーションにうなるしかありません。

そして、もう一つの料理が『昔ながらのラーメン』。

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「聞いた話ですが、元々は食堂で出していた『すいとん』が、戦後になってラーメンに変化した」という一品。あっさりした口当たりから広がるのは、優しく溶け込んだ野菜や鶏肉のエキス。初代から受け継がれてきた味を纏った、細ちじれ麺を啜る心地よさがたまりません。

「味そのものは昔のイメージを残しながら、少しずつ変化させていますが、基本的に野菜と肉の『清湯』がベースになっています」

具材もネギと海苔という昔ながらのシンプルスタイル。ただし、チャーシューは低温調理にアップデート。ムチムチとした弾力の中から、じんわりと豚肉の旨味が楽しめる志向になっています。

そんな味を昔から支持するのが、食堂の斜向いに構える鎌倉市農協連即売所、通称『レンバイ』に野菜を出荷する農家の方々でした。

「ウチでは昔からレンバイの野菜を使っていて、初代からは『◯◯さんの売場から大根を持って来い!』なんて言われたりもしてました。その縁もあって、おばちゃんが食べに来たり余った野菜をくれたりしたことも。お年を召している方には、ウチに来たら必ずラーメンを食べる方もいます」


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