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■湯治場の玄関口、りんご箱のお店にて

津軽藩の湯治場として800年以上の歴史を持つ大鰐町。温泉街の玄関口、大鰐温泉駅の前に店を構えるのが山崎食堂です。

大鰐で生まれ育った初代の山崎かよさんが、この場所でお店を始めたのは昭和6年頃。線路の保線夫をしていたご主人の繋がりで、国鉄が保有する駅前の土地を借りて、りんご箱を並べた店を開きました。

乗降客相手に色々な物を販売する中、要望に応えて作り始めたのがかけそば。素朴で心温まるおいしさは評判を呼び、かよさんの長女・としさんが二代目として継ぐ頃には、店を構えて本格的に食堂を営むようになりました。

その後、三代目を継いだのは、かよさんの長男で高校卒業後に警察官として働いていた鉄男さんご夫婦。食堂の味を決める麺と出汁を作り、料理の配達を担う鉄男さん。厨房で腕を振るう奥様の千賀子さん。夫婦が生み出す料理の数々は、温泉街に欠かせない存在になっていました。

ところが一昨年、鉄男さんが病に倒れてしまったのです。

■昔と同じ味にこだわり守り抜くこと、それが使命

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そこで急遽、航空会社に勤め東京で生活していた息子の孝二さんが戻ってきました。不意に暖簾を継ぐことになった四代目は、昔と同じ味を守り抜くことにこだわりを持ちながら厨房に立ちます。

「お客さんから『久しぶりに帰ってきても、変わらない味がうれしいなぁ』という声を聞くたびに、この味を守り続けなければと思うんです」

二代目の時代にはラーメンが、三代目の時代には定食がメニューとして登場。

「二代目の頃には、初代のそば・うどんと同じように中華麺も地元の藤田製麺所から買っていましたが、三代目の時代に製麺所が無くなってしまい、それをきっかけに自家製麺に切り替えました。今も私が生地を練って製麺機で自家製麺しています」

色々な料理が楽しめる環境が整い始めた一方で予期せぬ変化にも対応し、受け継がれてきた麺や地元の醸造元の調味料を使ったスープに、こだわりを持ち続けています。

■温泉熱が育む秘伝の食材・大鰐温泉もやし

そんな食堂の人気メニューは、大鰐町秘伝の食材『大鰐温泉もやし』を使った二つの料理。水耕栽培で育てる一般的なもやしに対して、大鰐温泉もやしは土耕栽培。在来種の豆を使い町に流れる温泉熱だけで地温を高めて栽培します。

「元々は冬場の農閑期の食材なんです。かつては町内に数多くあった温泉宿の地下で作っていたのですが、宿が減るに連れて生産量も減っていったのです」

「昔は豚汁の材料や味噌汁の具として食べていた」と、汁物を彩る具材として馴染み深い大鰐温泉もやしを、ラーメンに盛り込んだ『おおわにラーメン』が生まれたのは、今から20年ほど前のこと。このもやしを多くの人に知ってほしいという気持ちで、千賀子さんがラーメンの具として使い出し、一躍食堂の看板メニューとなりました。

一方『大鰐もやし定食』ができたのは7〜8年前。「子供の頃によく食べていたもやし炒めを定食として出してみよう」というきっかけで生まれたメニュー。大鰐の家庭で古くから食べ継がれてきた料理を、観光客も楽しめるようになり、左右のエースが出揃ったのです。

大鰐温泉もやしの特長は長さと太さ。40センチほどのもやしを食べやすくカットする心地良い音が厨房に響き、油を敷いたフライパンで豚肉や油揚げと一緒に炒めていると、もやしの独特な香りが厨房に広がり、まるで畑にいるかのようです。

「そっちが阿闍羅山のように盛るなら、こっちは岩木山だ」

ご夫婦で冗談を言いながら、器にたっぷりともやし炒めを盛り込んでいきます。

■香り、歯ざわり、そして風味。温泉もやしの個性を定食とラーメンで

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ほんのり醤油色に染まったもやしは、繊維しっかりザックザク。らしからぬ逞しい食感と共に広がる独特の香りを体験すれば、初めて食べる方は「これがもやし!?」と驚き、いつしかこの感覚がクセになるはず。

ほんのり甘い豚肉のエキスや脂ともやしの相性の良さはもちろんですが、もやしの豊かな風味や豚のエキスを凝縮した炒め汁を吸った油揚げ。これと御飯との相性が抜群なんです。

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そして、こちらがおおわにラーメン。

中華麺の提供当時と変わらない細縮れ麺を、もやしと共にすすって頬張れば、ツルツルザクザクと心地よく軽快な歯ざわりが。

煮干しと昆布の出汁や、タマネギなどの野菜の甘さが溶け込んだスープに合わせるのは、地元の醸造元・マルシチ津軽味噌醤油の醤油を使ったタレと、もやしの炒め汁。すっきりした口当たりから広がる、旨みしっかり風味豊かな味にレンゲが止まりません。

■いつも、背中を見守られながら

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「そば・うどんやラーメンのスープには昔から煮干しを使っていますが、今は昔と比べて値段が高いので大変です」

受け継がれてきた食堂の味を守る中で、時代に対応すべく色々な苦労に直面する四代目。それでも、初代のかよさんと二代目のとしさんの遺影に見守られながら、今日も温泉もやしと共に暖簾を守り続けています。

りんご箱から始まった食堂の味は、今日も大鰐の玄関口で多くの方に欠かせない存在であり続けています。


山崎食堂

創業年:昭和6年ごろ(取材により確認)
住所:〒038-0211 青森県南津軽郡大鰐町大鰐前田34-21
電話番号:0172-48-2134
営業時間:10:30~19:00(第2・第4土曜日は10:30〜14:00)
定休日:なし
主なメニュー:大鰐もやし定食(800円)/おおわにラーメン(並・650円、大・700円、小・600円)/もつ煮込定食(650円)/かつ丼(700円)/カレーライス(600円)
※店舗データは2016年6月17日時点のもの、料金はすべて税込み。

〒038-0211 青森県南津軽郡大鰐町大鰐前田34-21

プロフィール

百年食堂応援団/坂本貴秀
百年食堂応援団/坂本貴秀ローカルフードデザイナー
合同会社ソトヅケ代表社員/local-fooddesign代表。内閣府を退職後、ブランディング・マーケティング支援、商品開発・リニューアル、コンテンツ企画・撮影・執筆・編集等各種制作を手掛けている。