埼玉県秩父市「ファミリーレストランみのり」

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■「秩父に料理の総合デパートを作りたい!」

2016年12月1日、ユネスコによって「山・鉾・屋台行事」が世界無形文化遺産として新たに登録決定されました。

地域社会の安泰や災厄よけを願って山・鉾・屋台を巡行させる祭礼として、登録対象となった全国33の行事。その一つが埼玉県秩父市の「秩父夜祭」。毎年12月3日の本祭には朝から巨大な笠鉾や屋台が街を練り歩き、大勢の曳き手によって急坂・団子坂を登る夜巡行に、クライマックスを迎えます。

その出発地点となる秩父神社のほど近くに店を構えるのがファミリーレストランみのりです。店頭に並ぶサンプルに心躍らせながら中に入ると、出迎えてくれたのは三代目となる池田正人さん・あかねご夫妻。年のころ12歳も離れた姉さん女房のあかねさんは、笑顔が素敵でまるで親戚のお姉ちゃんといった感じです。

このお店の前身となる「いせや」が創業したのは1935年以前のこと。長野生まれの初代・池田清さんと秋田生まれのムメノさんは東京で出会い、結婚を経て団子やおいなりさんを提供する甘味処を秩父の地に開きました。

主にムメノさんが調理を担当し「甘味にはあまり興味を持たなかったらしい」という清さん。
しかし、甘味処を営む中で閃いたのか「秩父に料理の総合デパートを作りたい!」という思いで一念発起。東京から中華や洋食の料理人を呼び寄せて、食堂へと模様替えを果たしました。

■みのり食堂・収穫の時代

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昭和45年当時のメニューの主役は上カツ丼でしたが、5年後のメニューではA〜Cランチのセットが顔役に。一方、昔の秩父夜祭のメニューに書かれたクリームコーヒーは「コーヒーフロートなんです」

清さんの狙いは大当たり。東京での流行が反映された料理の数々が評判を呼び、秩父の町に欠かせない存在となっていったのです。もちろん、料理の物珍しさだけではお客さんは離れてしまうものですが、「中華料理を作るために製麺工場を建てて、麺や皮は自家製で作っていた」ように、味へのこだわりを忘れることはありませんでした。

当時掲げた屋号は『みのり食堂』。「お店の壁や当時のお弁当の掛け紙に、稲が実るような画が描かれていたので『実り豊かになりますように』という願いを込めたものじゃないかと思っています」という由来のとおり、お客さんの心に美味しい思い出を実らせた一方、「従業員用の寮があったり野球チームを作ったり」とオーナーとしての責任も果たした清さん。まさに大豊作の時代を迎えたのです。

そんな清さんを見て育った息子の務さん。長男として生まれたこともあって、「自分が店を継ぐんだ」と自然と意識するようになっていました。我が子の静かに燃える意志に応えてか、清さんも「大学には行かずに店を手伝え!」と告げて、餃子を作ってから学校に通ったりなんてことも。

こうして二代目としての道を歩み始めた務さん。厨房で働く先輩の姿に学びながら料理の腕前を日々高めていきつつ、友人の結婚式で出会った妻の美那子さんとの間に、4人の子宝(しかも、すべて女の子!)に恵まれ、賑わいに包まれた日々を過ごしていました。

■これが私の進む道

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成長した4姉妹は、それぞれ短大に通ったり化粧品メーカーの美容部員になったりと、生活拠点を東京や大阪に移して、日々の生活を送っていました。しかし平成10年に美那子さんが病に倒れてしまったのです。

医者からの宣告は『余命三ヶ月』。当時既に結婚していた次女以外の3人が秩父に戻り、長女のあかねさんだけは都内の会社に秩父から通勤し、三女と四女が母の看病をする生活を送っていました。「当時は8時間の仕事のために、電車に5時間乗る生活を続けていたんです」

看病の甲斐なく美那子さんは他界。四女は大阪に戻り一時は三女がお店を手伝っていましたが、結婚を契機に秩父を離れることに。亡くなった後も会社勤めを続けていたあかねさんですが、「父から『食堂を手伝ってくれ』と言われたんです」

「祖父が呼んだ料理人は、父への代替わりの時期に卒業していった」ことで、務さんと務さんの弟、務さんの妹、あかねさんの4人で店を切り盛りするように。ところが、今度は務さんの妹さんが他界。みのりの歴史に再び危機が訪れたのです。

「父からは『店を継がなくてもいい。自分の道を進みなさい』と言われてたのですが、知り合った今の主人が料理人だったんです」

あかねさんとの共通の友人を介して知り合った三代目の正人さん。秩父に生まれ東京の寿司屋で研鑽を積み帰郷。「みのりを継いでもいいよ」というプロポーズで二人は結婚。暖簾を受け継いだ姿を見守りながら、務さんは生涯に幕を閉じたのです。

■メニューの先にお客さんの笑顔が浮かぶから

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「秩父夜祭の時は、とにかくお客さんがひっきり無しに来てくれるのでメニューの数を絞らざるをえないんです」と、とにかく豊富なメニューが自慢のお店。かつては「調理人が5人と出前専門の方が3人」で対応していたそうですが、今は二人で切り盛りをしているこのお店。苦労のほどを伺ってみると、

「たまにメニューを減らそうか?という話もあるのですが、ある日、行きつけの居酒屋さんのメニューを見て、品数が少なくなったことにがっかりしたんです。その気分を味わってほしくないので。うちは食のデパート。確かに二人でやっているとメニューが多すぎて辛いんですが、『あの人がこの料理を食べるなぁ…』と顔が浮かんできて、やっぱり削れないんです」

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日替わりサービスランチの豊富なラインナップは、積み上がった張り紙メニューの厚みが物語ります。

これだけのメニューの中からマイベストを探しだすのは至難の技。もちろん、どんな料理も抜群の美味しさ間違いなしなのですが、やっぱり自分が気になったのはAランチ。

「2代目のころから同じスタイルなんです」という、エビフライ、唐揚げ、ハムにソーセージ、といった洋食おかずと、チャーシューやシウマイといった中華おかずがひしめく一品。その姿を見ないわけにはいきません!

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「50年以上前から使っているこれで、ごはんを炊いているんです」

案内されて入った厨房で対面したのは、大きなガス炊飯器。上下二段に重なるこの秘密兵器が、お店のおいしさの秘訣。洋食にだって中華にだって丼ものにだって、白く輝くホカホカごはんが欠かせません。

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その傍らで少しずつ作られていくAランチ。大きなお皿に次々に集結していく姿は、秩父夜祭のハイライトのよう。

「うちのお店、大人もお子様ランチを注文できるんですが、量は少なめなんです。なので、AランチとBランチは『大人さまランチ』といったところでしょうか」

金型に詰めたごはんをお皿に置いて、あとは揚げ物を待つばかりです。

■ごちそう盛りだくさん!愛され続けるAランチと昔ながらのラーメン

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目の前に登場した大きなワンプレート。子供の頃の夢を乗せて、大人となった自分の前に堂々と登場!

どれにしようか悩みつつ、最初はやっぱり大きなエビフライから。ずっしりとした手応えを感じながら口元に運べば、サクッ!プリン!と、口が欲していた感覚が一気に押し寄せてきます。お次はチャーシュー。甘くやさしい煮汁がしっかり染み込んだこの味に、ごはんが合わないわけがありません。

中華系のおかずと洋食系のおかずを交互に食べるのが、勝手ながらの流儀。そう決めて食べ進めるうちにふと思いました。これはごはんつきのおつまみプレートだと。

スープを片手にシウマイを食べれば、玉ねぎの甘さとお肉の肉汁感のバランスが際立った懐かしい味。『シウマイの皮も自家製だったんだよなぁ…』と思えば、みのり食堂時代の看板メニューだったラーメンが頭をよぎります。

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ということでラーメンも注文。濃い目の色に染まったスープは飲みやすくあっさりした口当たり。昆布と煮干し出汁の純和風スタイルに「チャーシューの煮汁」が深みを加えています。細めの麺をスープにからめて啜ると、そのバランスに感嘆するしかありません。器を彩る具材もチャーシューを中心に具だくさん。Aランチと一緒に食べれば、ラーメンライスも楽しめちゃいます。

■百年目の営みに向けて

サスペンダーが似合う初代の清さん(左写真の右から4人目)と、厨房でお手伝いの方と盛り付けをする二代目の務さん(右写真の一番左)。

お店を訪れるお客さんの顔ぶれについてお話を伺ってみると、

「昼間はこの辺りには会社が多いのでお勤めの方。土日は三世代連れのお客さんが多いです。女性と男性は半々ぐらいです。例えばいつも中華丼を注文するサラリーマンの方だったり、いつもラーメンを注文する年配の方だったり。いつも同じ席に座って過ごされてます」

お店の奥に並ぶ座敷席にその姿を想像すれば、そんな居心地の良さがあるからこそ、ここは本当の意味でファミリーレストランなんだろうと感じます。

「ウチには子供がいないから跡継ぎについては考えてないけど、二人で百年までは営業を続けたいんです」

伝統を守り受け継ぐ街の食堂。お客さんとの思い出が積み重なって生まれる百年目の瞬間に、自分も立ち会いたいものです。


ファミリーレストランみのり

創業年:昭和11年(取材により確認)

住所:〒368-0046 埼玉県秩父市宮側町16-11

電話番号:0494-22-0556

営業時間:11:30~14:30/17:30〜20:30

定休日:月曜日

主なメニュー:Aランチ(1,390円)/Bランチ(930円)/焼肉セット(980円)/ハンバーグセット(980円)/ラーメン(670円)/オムライス(820円)

※店舗データは2016年12月8日時点のもの、料金には消費税が含まれています。

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