2020年3月23日。全国各地で猛威を振るう新型コロナウィルスの感染者が、県内で初めて発覚した青森県。夜になって県内メディアは慌ただしく第一報を報じていました。
その3日後の弘前市。新聞やテレビはもちろん、レンタカーで聴くラジオからもコロナ関係のニュースが絶えることありません。
まるで春のように岩木山がくっきりと見える空の下、本来なら今年で100回目を迎える、弘前さくらまつりの準備が進むはずの街もどこか静か。残雪も少なくマスクの白ばかりが目立ちます。
春の訪れと共に馴染みの大きな看板を掲げた小屋を建て、津軽そばで花見客をもてなす三忠食堂。店頭の「本日、津軽そばあります」の文字にいつも以上に安心し、お昼時の店内では地元のお客さんがお腹を満たしていました。
お店の顔である津軽そばと中華そば、カレーライスはもちろん、食べたことがないカツ丼にも惹かれるのですが、やっぱり津軽そばを注文。
焼干しのやさしく上品な旨味が溶け込む熱々のお出汁で口と心を潤し、フツフツとした独特の口当たりを持つそばを食べていると、五代目の黒沼三千男さんは、お店の中で慌ただしく電話をかけていました。
毎年200万人以上が訪れる弘前さくらまつり。公園内に並ぶ無数の露店の数だけそれを支える関係者も多く、無念の第一報を伝えています。
本来なら桜を愛でながら啜りたかった津軽そばと中華そば。
もちろんおいしさに変わりなく、むしろこんな環境の中でも自分の仕事が完遂された味が作られることに、心から感服するしかありませんでした。
「まつりは中止になったけど、店は開けるからね」
今年のいつもと少し違う春となってしまいましたが、この味が桜の時期の季語であることに変わりありません。
三忠食堂の歴史や津軽そばの作り方を取材した記事は、下のリンクからご覧ください。