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■五所川原のシンボルとして

弘前市の士族に生まれた金川亀吉さんが、五所川原に移り住んだのは明治28年頃。町の一角にそば・うどんの屋台を開きました。

その味は好評を博し、自らの名前を一文字使った「亀乃家」の屋号と共に、店舗を構えたのは明治終期頃。

以降も店舗の移転を経て、大正10年には料亭も兼ねた大きな料理店を建てるまで。昭和9年に建てられた店舗は近代的な佇まいもあって、当時の五所川原ではシンボル的な存在でした。

■三代目の放蕩と四代目の決意

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「ひとつ前の建物は60年以上使っていたんです。3年や10年の短期間で五所川原の市内を転々と巡っていました。」幼き日の記憶を思い出しつつ、お店の移り変わりを語る亀乃家の四代目・金川和弘さん。

初代の長女のご主人・勝三さんが二代目を継いだのは、賑わう昭和の頃。料亭もやっていたこともあって、お店で働くお弟子さんも多く、規模の拡大や時代の変化に伴って洋食も扱うようになりました。

しかし、お店の規模が大きくなるにつれて、店のことを使用人に任せることが多くなっていったのが、三代目を継いだ正男さん。「飲む買う打つ」の姿を見た料理人や従業員は次々と店を後にし、商店街に面していたお店は、いつしか小さなお店に変わっていったのです。

そんなお店を四代目の和弘さんが継ぐ決心をしたのは、高校3年生の二学期のこと。「東京の大学に行き、別の仕事をしたかった」という想いの一方で、四代目として後を継ぐ決意をさせたのは「心のどこかに、このまま亀乃家がなくなるのは勿体無い」という想いでした。

卒業後は横浜で修行を積み、20才の時に五所川原に戻って以来、今日まで実直に暖簾を守りぬいています。

■食堂の進化を象徴する「天中華」

亀乃家の暖簾に描かれている「そば処」の文字。そんなおそばのお供といえば天ぷらですが、亀乃家の天ぷらはホタテのかきあげ。以前は「青森の西海岸や八戸、青森の漁港で水揚げされた鮭や鱒といった魚を天ぷらにしていた」そうですが、いつしかかき揚げが主役となっていました。

誕生のきっかけとなったのは、ある日のこと。三代目が一日分として必要な分を揚げ置いた、かき揚げを目にしたお客さんの一言でした。

「その天ぷらを、中華そばに入れてくれ。」

今では「舌代」に欠かせない天中華が生まれた瞬間です。

一方、壁に掲げられているのは鍋焼きうどんの文字。実はここ、青森県内で初めて鍋焼きうどんを提供したお店。新メニューが生まれる環境に、新しいもの好きの神様がついているのでは?と思えてしまいます。

丁寧に引いた出汁がアルミの鍋に注がれ、しなやかな麺がたくさんの具と共に煮込まれる。その傍らで、小ぶりのホタテがたっぷり入ったかき揚げが、「じゅわぁ」という音を奏でながら芳ばしい色に染まる。

四代目と奥様、四代目のお姉さん、そして去年仙台から戻った五代目の尚寛(なおひろ)さんが、手際よく料理を作り上げる厨房は、笑顔に満ちあふれています。

■笑顔の厨房から生まれた出汁が、身体に染み渡る

最初に運ばれてきた天中華のスープを口に運べば、舌を包むのは豚ガラと野菜の甘みが溶け出したまろやかで軽やかなコク。飲めば飲むほどにクセになります。

そこにドーンと乗った帆立貝のかきあげ。引き締まった貝柱がたっぷり詰まったところをサクッと頬張れば、心地よい歯ざわりと共に衣越しにじんわりと甘さが溢れ出します。

時間を置くほどにスープに溶け込むかき揚げの甘さとコク。ハリのある麺にコーティングされる味の変化を楽しむのも醍醐味です。

そして鍋焼きうどん。まろやかで少し甘めのお出汁には、鰹節と焼き干し、昆布で構成された、海で育った旨みのオールスターズが凝縮。ここにセリやお麸あるいは魚の練り物といった具が、鍋の中に自身の香りやコクで縄張りを作ります。

場所ごとに風味や香りが変わり、平打ち感のある麺と一緒に頬張れば一つの鍋でフルコースを食べているかのよう。流石元祖!これは凄い鍋焼きうどんです。

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■身の丈だからこそ

「いつも身の丈でやっている。それは親父の教訓。家族でやっている商売なので家族仲良く。それだけ。」先代の姿を見てきたからこそ、和弘さんの心に揺らぎはありません。

そんな四代目に「亀乃家とは?」と伺ってみると、返ってきたのは「家族を養うためのもの」という言葉。

40年50年に渡って足を運ぶ常連のお客さんが多いのは、実直な四代目を中心とした笑顔にあふれた厨房に引き寄せられているからこそ。これこそが亀乃家の美味しさの決め手です。


亀乃家

創業年:明治28年頃(取材により確認)
住所:〒037-0054 青森県五所川原市上平井町116
電話番号:0173-35-2474
営業時間:10:00~17:00(冬季は10:00~17:00)
定休日:月曜日
主なメニュー:天中華(700円)/天ぷらそば(700円)/鍋やきうどん(11〜2月の提供・750円)/天丼(650円・小400円)/親子丼(600円・小400円)/玉子丼(550円・小400円)
※店舗データは2016年2月29日時点のもの

〒037-0054 青森県五所川原市上平井町116

プロフィール

百年食堂応援団/坂本貴秀
百年食堂応援団/坂本貴秀ローカルフードデザイナー
合同会社ソトヅケ代表社員/local-fooddesign代表。内閣府を退職後、ブランディング・マーケティング支援、商品開発・リニューアル、コンテンツ企画・撮影・執筆・編集等各種制作を手掛けている。