大十食堂-01

■「大」の屋号を受け継ぐ。

青森県の南東部、旧尾上町の中心街・十文字。かつて人を運ぶ馬車が往来していた交差点。この停車場の前に初代の西谷重助(にしやじゅうすけ)さんが、そばとうどんのお店を始めたのは明治33年のこと。

西谷家の屋号である「大」の文字がついた食堂、大十食堂が歴史を刻み続けて120年近くになります。

大十食堂-02

「飲む打つ買う」が三拍子揃った二代目の実さん、真面目で実直な方だった三代目の芳雄さん。真逆な性格の二人が守ってきた暖簾を、四代目の豊さんが受け継いだのは25歳のときでした。

豪快な二代目と真面目な三代目の血を引いた四代目。人を惹きつける柔らかな雰囲気で自身や料理について話す姿に、それぞれの長所を引き継いだ印象を受けます。

■食堂のラーメン。だからのこその「手作り焼き干し」

そばとうどんから始まったお店のメニューに、「当時の流行で」ラーメンが加わったのは昭和23年のこと。一つ一つ手揉みを欠かさない麺はもちろんですが、スープへのこだわりも並大抵のものではありません。

ラーメンを始めた当時、出汁に使っていたのは焼き干しと煮干し。しかし、四代目の頃には焼き干しは既に高級品。そこで、考え抜いた四代目が編み出した結論が「煮干しを自分で焼く」というものでした!

「マイワシ(ヒラコ)の煮干しを焼いたものを臼で細かく挽いて、それを更に乾煎りするんです。」

庶民の生活に寄り添う食堂という商売ゆえ、なかなか値上げはしづらいもの。この心意気に感服です!

他にも「髄の旨みを溶けこませるように、とんこつはしっかり割ったり、そこに昆布や削り節を加えて味を整えて、魚臭くないまろやかな出汁を作っている」とのこと。そこまでこだわる理由を伺うと、

「やっぱり食堂はラーメンが美味しくなくちゃ。じゃないと、お客さんもこの店には来たくないと思うでしょう。今は親父の時と素材が違うので、自分なりに考えて塩辛くなくすっきりと飲める味に仕立てるんです。」

美味しさの源はご主人の強い想いでした。

■最強の炭水化物トリオ・Aセットが生まれた日

大十食堂-05

そして、ラーメンと並ぶもう一つの名物が「昭和33年に始めた」という焼きそば。こうなると、お店の両巨頭を一緒に食べたくなるもの。そこで、今から20年前にも同じことを考えた常連さん。

「ラーメンも焼きそばもおにぎりも食べたい!」

四代目への小さなお願いは、焼きそばとラーメンのハーフセットに、おにぎりがついたAセットを生み出しました。

大十食堂-06

フライパンで炒めたタマネギと豚肉をソースで味付けて、茹でた後に水で引き締めた麺を絡める。そこに仕上げとして焼き干しの出汁を纏わせる。

海とソースの香りが広がる厨房の傍らで、動物と魚の旨みがたっぷり詰まったスープが作られ、茹で上がった麺が丼にしゅるんと収まります。

■ラーメンのおかずに焼きそばをすすり、仕上げにおにぎりを頬張る

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目の前に運ばれてきたAセット、その迫力に圧倒されます。

とんこつなのに濁りなく琥珀色に染まったスープは、驚くほどに口当たりが滑らか。臭みを微塵も感じさせない髄のエキスが、隅々まで溶け込んでいます。口の中で肉の旨みを堪能していると、少しずつ顔をのぞかせる魚出汁。ふわっと広がる上品な旨みが、肉から魚へと綺麗に受け継がれます。

そんなスープが絡んだ手揉みの麺。食感勢いよくすすればモチモチの食感がたまりません。あとは、最後の一滴まで残さず食べるという簡単な仕事をするだけです。

一方の焼きそばは、口の中でラードでコーティングされた麺がしなやかに踊りだし、しっかり目のソースの味に、お出汁のほんのりやさしい風味が混ざり合っています。

玉ねぎと豚肉が心地良いアクセントとなって、一口ごとに食べるのが更に楽しくなります。

そして、おにぎり。仕上げに食べるか途中で食べるか。タイミングは人それぞれですが、個人的には、ラーメンのスープと共に最後に楽しむことをオススメします。

大十食堂-10

こちらがBセット。焼きそばのフルボリュームに、半ラーメン。麺志向が強い方に食べてほしいセットです。

■背中で覚えてきた技だからこそ

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カウンター席の上に飾られている当時のおかもちの蓋が、その歴史を物語っています。

「今の食堂の生活があるのは、先代のおかげ」

背中越しに三代目から色々なものを学んだ豊さんは、今日も先代への感謝の気持ちを込めて厨房に立っています。

「自分が覚えてきたように、そうじゃないと覚えられない」と語る豊さんには、三人のご子息がいますが、「好きなことをやってくれればいい」ということで、今は色々な職業に就かれています。

でも、きっと未来の五代目が豊さんの背中を見つめている。なんだか、そんな気がしてなりません。

※この取材から数年後、念願のBセットを食べてきました!


【店舗情報】
創業年:明治33年(取材により確認)
住所:〒036-0212 青森県平川市尾上栄松19-1
電話番号:0172-57-2022
営業時間:11:00~16:00(売り切れ次第終了)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
主なメニュー:中華そば(550円)/焼きそば(600円)/Aセット(800円)/Bセット(麺類プラス200円)
※店舗情報は2020年6月7日時点のもの。料金には消費税が含まれています。

〒036-0212 青森県平川市尾上栄松19-1


プロフィール

百年食堂応援団/坂本貴秀
百年食堂応援団/坂本貴秀ローカルフードデザイナー
合同会社ソトヅケ代表社員/local-fooddesign代表。内閣府を退職後、ブランディング・マーケティング支援、商品開発・リニューアル、コンテンツ企画・撮影・執筆・編集等各種制作を手掛けている。