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■駅前の牛乳屋が食堂になるまで

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木造の駅舎が出迎える芦ノ牧温泉駅。車両も桜色です。

桜が彩るローカル線として知られる会津鉄道。その前身となった国鉄会津線が開通したのは昭和2年のこと。当時の終着駅だった上三寄の駅は芦ノ牧温泉と名を変え、豊富な湯量を誇る温泉の玄関口となっています。

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この駅の名物がねこの名誉駅長。初代の「ばす」から二代目の「らぶ」へと受け継がれています

馬車によって物流が支えられていたこの時代。駅に近い国道には材木や炭を積んだ馬車が行き交い、国道沿いでは人と馬が一緒に泊まれる馬車宿が営まれていました。

小塩の地で馬車宿を営んでいた井上家に生まれた幸美(こうみ)さん。家業を継ぐのは長男だったこの時代、四男が切り拓いた新たな家業は「鉄道を待つお客さんに牛乳を提供すること」でした。

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鉄道の開通と時同じくして、奥様のキヨノさんと共に駅前に開いた一軒の牛乳屋。これが、現在の牛乳屋食堂のルーツです。

しばらくすると国鉄会津線の延伸工事が始まり、鉄道客と延伸工事の作業員によって賑わいに包まれた上三寄駅。そこで、「休憩場所として食堂をやるのはどうだろう?」と考えた幸美さんご夫妻。

お客さんのお腹を満たすべく、お店の隣に住んでいた中国出身の方から支那そばの作り方を教わったキヨノさん。牛乳屋を始める際に役所に届けていた「牛乳屋」の屋号に食堂の二文字をつけて「牛乳屋食堂」としての日々をスタートしました。

■嫁四代・暖簾の系譜

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左から三代目の節子さん、二代目のトキ子さん、四代目の美紀さん

初代から現在まで、女性の手によって受け継がれる店の暖簾。 駅前の賑わいと共に食堂の存在が、町に欠かせないものとなっていった戦時中。横浜から疎開されていたトキ子さんが、お見合いを経て二代目を継ぎました。

ご主人の昭一さんが女性3人と男性5人の8人兄弟、トキ子さん自身にも3人の子宝に恵まれた中、初代と相談して生活のために始めたのがご飯物。幸美さんのお友達が営む食堂で学んだ、かつ丼や親子丼に玉子丼、そしてカレーライスが、更にお店を賑わせていったのです。

三代目の節子さんは郡山市の農家の生まれ。二代目の長男だった旦那さんと知り合い、食堂の後継ぎであることを告げられた当時、「食堂に嫁げば、おいしいものがあるんじゃないかなぁ」との思いでお嫁さんに来られそうです。 メニューに餃子とセットを導入し、現在も季節限定メニューを作りだしたり。二代に受け継がれてきた暖簾を発展させています。

四代目の美紀さんは旧・塩川町(現在の喜多方市)。場所柄、昔からよくラーメンを食べていたそうですが、会津若松の食堂の存在は知らなかったそうです。 ある日、美紀さんが務めていた会社に後のご主人が訪れたのが運命の始まり。節子さんが作った辛子味噌タンメンと煮込みカツ丼のおいしさに「ここに嫁入りすることに決めた!」と決意を固めました。

「食堂に立つ先代の姿から教わり、見よう見まねでやっていた」トキ子さんから、「目加減、手加減、良い加減」で料理の作り方を教わった節子さん。 そして美紀さんには、スプーンの分量で測りなおしたものが。女性四代に渡って、食堂の味は受け継がれています。

■変わらないラーメンとソースカツ丼の魅力

お店の料理が時代とともに変化する中、その中心にあるのはラーメンとソースかつ丼。特に初代から受け継がれるラーメンのスープのレシピは「出汁には豚骨に地鶏のガラ、煮干し、野菜を、タレには地元の醸造元の醤油を使っています。お客さんからは『懐かしい!この味なんだよね!』とお声がけいただいてます」

と変わりませんが、麺は中太麺と極太麺の二種類から選べます。

一方のソースカツ丼、味の決め手はやっぱりソース。「お店で使っているソースは、ずっと継ぎ足しているものですが、ラーメンスープを加えているのがおいしさの秘訣です」とのこと。

そんなお話を伺えば、両方食べたくなるもの。ここでメニューをめくるとセットメニューのありがたい文字が。「男性の方には、Bセットがよく出ています」という助言に沿いつつ、餃子も合わせて注文しました。

開店時刻と同時にお客さんが次々と訪れると、慌ただしさを増していく厨房。

とんかつを切る音が厨房に響く中、昔から使い続けている丼もの用の小鍋で煮込まれる煮込みカツ丼。器の中でスープとタレが出会い、湯切りされた麺が滑りこむ。

節子さんを中心に抜群のチームワークによって次々と料理が出来上がり、お客さんの元へと運ばれていきます。

■破顔一笑!ラーメンとソースカツ丼の「Bセット」

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ソースと出汁の食欲が沸き立つ香りが目の前に。嬉しさと共にまずはラーメンからいただきます!

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スープの足腰は輪郭がくっきりした煮干しの旨み。そこに溶け込む豚骨や鶏ガラの脂やコク。軽やかさを合わせ持つおいしさは、お客さんから「飲み飽きない」と言われることに納得のおいしさ。

二種類から選べる麺からは、ルーツに沿った極太手打風麺を選択。存在感のある表面はなめらかで、ずっしりもちもちの歯ざわり。手もみの分だけ旨味を離しません。

ここに赤身感しっかりなチャーシューに、たっぷりのメンマとネギ、なると。豪華な具材が丼を彩ります。

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お次はソースかつ丼。2センチ近くある分厚いカツ。甘くかすかに酸味の効いたコクのあるタレ。軽快な歯ざわりの衣から滲みだすタレと豚肉の旨みが顔をほころばせます。

ソースが肉に絡んだその美味しさはキャベツとごはんを呼び、最後の一切れまで勢いは止まらず。 比較的ごはんが少なめなので、女性でも食べきれるボリュームになっているのがうれしいところです。

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そして焼きたてホヤホヤの餃子。湯気に包まれた秘めたる弾力を感じさせる皮は、想像以上に心地よくモチっとした歯ざわり。中に包まれた餡からは、スープのように野菜のエキスや肉汁が瑞々しさ全開で押し寄せてきます。

会津田島に嫁いできた中国出身の方が、一つ一つ丁寧に手で包む家庭の温もりぎっしりの餃子。ほんのり香るニンニクの刺激もまた、食欲を高めてくれます。

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もちろん、食後には牛乳が欠かせません。腰に手を当てお風呂あがりのような勢いで、グイっといただきます!

■スープに溶け込んだ縁、暖簾を紡ぐ小麦の糸

「ウチの料理は、支那そばのスープが軸になっているんです」

かつ丼の割り下にも節子さんが考える新メニューにも欠かせない存在は、食堂で作り継がれた宝物。そんな味に惹かれて食堂にやってきた女性の手によって、今日もお客さんが笑顔で過ごされています。

現在、五代目の候補は美紀さんの息子さん。「小学生の頃は店の手伝いもしていたけど、中学生になった今は部活動に夢中」とのことですが、将来、女性で紡がれた歴史と食堂の味を、初めて男性が受け継ぐ日が来るのか。今から楽しみです。


牛乳屋食堂

創業年:昭和2年ごろ(取材により確認)
住所:〒969-5122 福島県会津若松市大戸町上三寄香塩343
電話番号:0242-92-2512
営業時間:11:00~15:00/17:00~20:00
定休日:水曜日
主なメニュー:ラーメン(中太会津麺は570円、極太手打風麺は620円)/ソースカツ丼(980円)/牛乳(130円)/牛乳屋ミニセット(1,000円)/Aセット(ごはん物一人前+半ラーメン・1,250円)/Bセット(ラーメン一人前+ごはん物半分・1,100円)/※セットメニューの麺料理を、極太手打風麺にする場合は+プラス50円
ウェブサイト:http://www.gyunyuya.jp/
facebook:https://www.facebook.com/牛乳屋食堂-855868494469312/
※店舗データは2016年4月8日時点のもの、料金はすべて税込み。

〒969-5122 福島県会津若松市大戸町上三寄香塩343

プロフィール

百年食堂応援団/坂本貴秀
百年食堂応援団/坂本貴秀ローカルフードデザイナー
合同会社ソトヅケ代表社員/local-fooddesign代表。内閣府を退職後、ブランディング・マーケティング支援、商品開発・リニューアル、コンテンツ企画・撮影・執筆・編集等各種制作を手掛けている。