北海道名寄市『三星食堂』の鳥の照り焼マヨネーズ炒め定食とジンギスカン定食

LINEで送る
Pocket

三星食堂-01


北緯44度の地に立つ食堂の朝は早い。

朝6時、地下の仕込み場でその日使う分の鰹節を削り、昆布と共にそば・うどん用の出汁を作る。ランチタイムには地元客だけではなく札幌や旭川から仕事で訪れた客が、14:30の休憩時間直前まで空腹を満たす。

現在の宗谷本線・名寄駅の前に三星食堂が誕生したのは1914年のこと。おそらくは日本最北端となる百年食堂の暖簾は、四代に渡り今日まで受け継がれている。

「昔はウチの並びに饅頭屋を挟んで別の食堂もあったり。ここの駅前は賑わってたんですよ」

三星食堂-02

こう語るのは三星食堂四代目の武田宏三さん。凛々しい顔立ちの46歳が暖簾を受け継いで10年が経った。

■「三」の字が繋げる三星の屋号

三星食堂-03

実はこの食堂、初代から四代目まで主の名前には必ず「三」の文字が入っている。偶然か必然かわからないが、代々受け継がれてきた経緯に触れる上でこの事実は興味深い。

この地に食堂を創業した武田寅三郎さんは滋賀県に生まれ、明治35年頃に北海道に渡り現在の東川町へ入植。しかし「農作業が肌に合わなかった」ことで、天塩川を船で渡って名寄へ移住し運送業を創業。今と変わらない駅前の地で始めた三星運送店の屋号は、食堂のルーツとして今もその名が受け継がれている。

「1914年と看板に書いてはいますが、実はもっと早い時期から始めていたという話もあるんです。ただ、百年前のことなのでウチの親父ですら本当の開業時期なんてわからないんですが」と歴史の長さを物語る。

当時の写真が伝えるのは、お待合処の文字や、和洋食、寿し、弁当などの文字が並ぶ看板と、立地の良さもあって客足が絶えることのなかった賑わいの記憶。

当時の最先端だった中華そばを作るために中国人の料理人を呼び寄せたり、そば・うどんは札幌の職人が作っていたりと、「一人の料理人というよりは、オーナー的な存在として食堂を始めた」という寅三郎さんの思いが、百年の礎になっている。

三星食堂-04

二代目の憲三さんが『肉なべ御飯』や『なべやきうどん』を看板に、戦中戦後に暖簾を守り抜いた後、三代目として受け継いだのが、男二人・女三人きょうだいの次男として生まれた泰三さん。

調理系の専門学校を経て25歳まで東京で修行を重ねた後に名寄へ帰郷。それから50年以上に渡り食堂を支え続け、今でもランチタイムには麺類作りに腕を奮う。

三星食堂-05
※宏三さんが戻る前に建て直された食堂の建物も、奇しくも四代目となる。

「他のお店だと家業は長男が受け継ぐのかもしれないですが、ウチは自分も親父もそうじゃなかったんです。自分も上二人は官公庁や土建関係の仕事に就いてますし。

元々、自分は高校を出たら名寄の外に出たいと考えていました。親も『専門学校ぐらいは行ってこい』って考えだったので、札幌の調理系の専門学校を経て飲食店やホテルでの修行をしていました。

ただ、おふくろからは『自分が四代目』という話はあったんですが、当時は継ぐことをはっきりとは意識してなかったですね」

■食堂の美学は「定食」にあり

三星食堂-06

「昔からウチはどの料理にも満遍なく注文が入るんです。名寄には昼に強い飲食店やファミレスがないこともあってか、『三星に行ったら何かある』という気持ちで来ているはず。家族全員で同じ料理を食べるのではなく色々なものが食べられることが、ウチを選んでもらえる理由でしょうね」

31歳で食堂に戻った宏三さん。修行先で積んだ腕前を活かし新メニューを次々と導入して食堂の味に新風を吹き込んでいた。

それを象徴するのが食堂の表に置かれた大きなメニュー。うどん・そばといった創業時からの顔から、中華そば、カツ丼といった丼ものまで食欲を掻き立てる文字が並ぶ中、宏三さんが特にこだわりを持つのが定食類。

「一品だけで完結するメニューと違って、主菜から小鉢、漬物まで。一つひとつちゃんと作った料理がお盆に盛られて始めて完成するのが定食というもの。色々な味が食べられるという意味で、実はサービス商品だと考えています」

料理の数だけオペレーションが発生しそれを全てクリアした料理が並ぶ、いわば食堂のベストセレクト。自宅の食卓に置き換えて考えると、これだけの料理を作って並べるのは手間がかかる。私たちが無意識のうちに手軽で親しみやすい存在として食べている定食には、作り手の美学が詰まっているといっても過言じゃない。

そんな定食の一番人気であり、店の看板メニューとなっているのが『鳥の照り焼マヨネーズ炒め定食』

「魚ものも含めて色々とメニューを増やそうと思った中で、最初に『生姜焼きがないな』と思って加えたんです。その後、調理のしやすさとボリューム感のある鳥肉をメインにした定食を考えたのがこれで、今ではウチの一番人気になりました」

一方、三代目が提供を始めて以来、安定した人気を誇るのがジンギスカン定食。

「ご当地グルメブームの影響もあって、『名寄のジンギスカン=煮込み』というイメージを持つ方も多いのですが、元々こっちの家庭では煮込むというより、平鍋やホットプレートに肉、野菜、うどんを盛って、タレをかけたら蓋をして蒸し焼きで食べるもの。店でも親父の代から家と同じように作って出してきたものなんです。ただ、ごはんにうどんだとあれなんで、うどんは入れてないんですけどね(笑)」

名寄の暮らしぶりに触れられる定番が主菜の定食と、四代目の工夫とこだわりが詰まった定食。これはもう、どちらも食べないわけにいきません。

■照り焼きとジンギスカン、二つのタレの香りが厨房を包む

三星食堂-07

「注文から料理を出すまでの時間は、おそらく名寄で一番ウチが早い。それでも『遅い』と言われることがあるんですけどね」

三星食堂-08

お客さんの声で鍛えられた素早い手さばきで、鶏もも肉を食べやすくタレが絡みやすいサイズにカットし小麦粉を打つ。

「生姜焼きもですが、しっかりと小麦粉を打って焼いてます。肉が柔らかくなってタレがトロっとなるのも早いので」

三星食堂-09

使い込まれた鉄製のフライパンに並べて火をかける。

「炭焼きのような香ばしさを出したい」という狙いもあって、極力フライパンに油を敷かずに皮目から肉を焼く。両面が火が通ったところで酒を投入。大きな火が一瞬だけ立ち上ったら蓋をして蒸し焼きに移る。これが柔らかく仕上げるための秘訣だ。

三星食堂-10

ここに特製のタレを絡めて肉と一体化させる。この手数にして手際の良さ、遅いではなく丁寧という言葉がよく似合う。

三星食堂-11

仕上げにかけられるのはオリジナルブレンドのマヨネーズ。

「エビマヨに使うようなものになっています。最初は鳥の照り焼きだけをシンプルに定食にしようと考えたんですが、手を加えようということで、たこ焼きをヒントにマヨネーズを組み合わせたんです」

三星食堂-12

一方、もう一つのコンロに置かれたのは、ジンギスカンの調理に使う、さながら小さな平鍋といったフライパン。

三星食堂-13

ここに羊肉やたっぷりの野菜を豪快に盛り込んだら、あとは蓋をして蒸し焼きにするだけ。

ジンギスカンといえばドーム型の鉄鍋で焼くスタイルが相場だが、ここの食べ方は生活の中で育まれてきた一つの作法。肉と野菜が一つになれば、家族団らんに欠かせない美味ができあがる。

■どうにもごはんが止まらない! 奥深き鳥の照焼と濃厚な羊肉の旨味

三星食堂-14

眼の前に運ばれてきたお皿から立ち上る、照り焼きの香ばしい匂い。

口に運ぶと皮に生まれた香ばしさをまとった照り焼きのタレが口に広がり、身が歯に当たるとその食感に驚きを隠せない。ふっくらと柔らかな肉から溢れる肉汁と程よい塩加減のタレがたまらない。

そんなおいしさを増幅するのが特製のマヨネーズ。タレとしっかり絡まれば、ごはん志向が一層高まる味付けに。確かに一番人気に納得だ。

三星食堂-15

お次はジンギスカン。大皿にたっぷり入った羊肉、野菜、そして両方のエキスが溶け込んだつゆ。新鮮な見た目なのに懐かしさを覚えるのは、家庭系の料理だからこそ。

特製タレが染みた羊肉は柔らかく、シャキシャキ野菜とのハーモニーがなんとも楽しい。焼×つけダレ系のジンギスカンに慣れていると、むしろこの味は心を射抜く。

もちろん、肉と野菜を食べた後は、お汁を白ごはんにかけてかきこむのみ。一口ごとに「あ、だからこの地に愛されてきたんだ…!」と、温まる身体が反応する。

もちろん、小鉢のおいしさも定食に欠かせない。手を抜かず思いを込めた定食には「お客さんがガツガツと食べて『美味しい』と言ってもらえるものを作る。それが一番です」という味に対する気持ちがぎゅっと詰まっている。

■10年の経験が人間を大きくする

三星食堂-16

「世間が求めている百年に対する理想と、自分たちが食べるためにやってきた百年とは意味が違うんです。客単価800円で40席。やっぱり稼働率を上げないと難しいので」

その一言に思わず息を飲んだ。「昔ながらの味だけだと新しいもの好きのお客さんに飽きられてしまう」という緊張感の中で、仕事の合間に新しいメニューを考案する。「お客さんにおなかいっぱい楽しんで欲しい」という言葉の裏にはそんな日々の苦労が見え隠れする。

そんな食堂の未来の担い手について尋ねてみた。

「龍之介っていう息子がいて、『食堂を継ぎたい』と地元の新聞に掲載された作文に書いています。自分の苦労を考えると大学に行ってサラリーマンになってほしい気持ちもあるんですが、もし本当に継ぐと決めたなら、10年は他の場所に行って修行してほしい。他人とちゃんとうまくやって人間としての基礎を作った上で継いで欲しいですね」

北の町で輝く三ツ星の味。次代に託すその日まで、今日も宏三さんは厨房に立つ。


【お店データ】
創業年:大正3年(取材により確認)
住所:〒096-0010 北海道名寄市大通南6丁目
電話番号:01654-2-3535
営業時間:10:00~14:30/17:00〜20:00
定休日:月曜日
おすすめメニュー:
鳥の照り焼マヨネーズ炒め定食(850円)/ジンギスカン定食(900円)/鍋焼うどん(750円)/ラーメン(600円)
※店舗データは2018年11月20日時点のもの、料金には消費税が含まれています。

〒096-0010 北海道名寄市大通南6丁目15-1