上原杏香里さん
Uehara Akari
Snack &Aママ
大井町のスナック「Snack &A」を経営する若きママ。学生時代、頑張ったご褒美でエステに通っていたことがきっかけで美容の道へ進み、29歳で恵比寿にエステサロンを開業。翌年、大井町にスナックをオープン。持ち前の明るさと人懐っこさで地域のお客さんに愛される。杏香里さんのお店も常連さんでいっぱいだ。
今回お店を紹介してくれるのは、大井町「Snack &A」の上原杏香里ママ。彼女が行きつけとして教えてくれたのは、大井町駅から徒歩4分のふぐ・うなぎ・串料理の店「かねまん大井店」さん。杏香里ママがイチオシする大井町の名店の魅力を探ってきた。

一階は名物ママが切り盛りし
二階ではパパがうなぎをさばく

「私が紹介したいのは、ふぐとうなぎの店です。何を食べてもすごくおいしいし、パパもママもすごくいい人!連れて行ったらみんなリピーターになっちゃうくらい素敵なお店なんです。予約しますので、ぜひ一緒に行きましょう!」
そんなノリのいいメッセージをくれたのが、杏香里ママだ。
ふぐとうなぎ———高級感漂うキーワードにやや身構えつつ大井町へと向かう。途中、なんと杏香里ママが来られなくなったと連絡が入った。お店の前に到着するも、一見の客にはなかなかハードルが高い佇まいである。やや不安を覚えながら門をたたくと、いい意味で想像とは違う光景が広がっていた。

一階には6席のカウンターと4席のテーブルがあり、ママさんがドリンクを作りながら常連さんたちとおしゃべり中。
一斉にこちらに注がれる視線にどぎまぎしながらご挨拶すると「あかりんから聞いているわ。そこ座って〜」とカウンターの席を空けてくれた。

「かねまん」店名の由来は、歴史が古すぎて不明なのだとか

カウンターに置かれた箸袋にはたしかに「ふぐ・うなぎ」とあるが、店内は思いのほかカジュアルな雰囲気だ。キッチンはピカピカで、凝った料理をしている様子はない。どういうわけか聞くと、厨房は二階にあり、インターホンで注文を伝えるのだという。
階段を上がると、店主の中田さんがふぐをさばく姿があった。

一階カウンターでママがお酒を作り、二階厨房で店主が料理を作る

作り置きはせず、すべて一から作るこだわり。ふぐやうなぎも自らさばく確かな技術を持つ

「かねまん大井店」3代目の中田さん(通称パパさん)は、東京都内で最初にふぐ料理の認可を受けた老舗「人形町かねまん」がご実家で、ご自身もふぐ取扱責任者の資格を持っている。ふぐ、うなぎの店だけでなく、おでん屋や焼きとんの店などでも修行を積み、その後、親戚筋が営んでいたこの大井店を継いだ。

ふぐとうなぎ料理はもちろん、ラムジンギスカンがあったり、そうめんちゃんぷるがあったりと北から南まで守備範囲が広い。タコスまである

「かねまん大井店」は元々ふぐとうなぎの店だったが、中田さんに代替わりし、自身が食べたいものを作るようになってから、どんどんメニューが増え、ピザやタコス、ハンバーグ、パスタ、北京ダックまで並ぶようになった。守備範囲の広さに驚いたが、これでもメニュー数はかなり減ったという。

鮮度抜群の仕入れ先と確かな料理の腕前
うなぎもフグも、焼きそばもうまい!

品川で朝獲れの鮮魚、朝獲れの肉が仕入れられる

大井町には精肉店や焼肉屋が多いが、その理由はお隣の品川に食肉市場があるためだといわれている。東京都にある11の中央卸売市場の中で唯一肉を取り扱っており、食肉の取扱高は全国一を誇る。
「かねまん大井店」も食材の鮮度には並ならぬこだわりがあり、仕込みはせず、すべてオーダーが入ってから作り始めるという。

鮮度がいいから出せる鳥刺し

来ることができなかった杏香里ママからおすすめを聞くと「メンチカツ、ハムカツ、イカスミ、ゴーヤチャンプル、食べたことないけど、すじこおにぎり!」とのこと。

おいしい煙を上げるうなぎ。地焼き串は一本600円という安さ!食べずには帰れない

おすすめの中に、うなぎとふぐが入っていない上に、自分が食べたことがないメニューまで推す推薦文に戸惑っていたところ、カウンターの常連さんらが「うなぎは本当に安くておいしい。絶対食べた方がいい」と教えてくださった。ちなみにこの方たちは杏香里ママの店の常連さんでもあるという。

うなぎは注文が入ってからさばき、炭火で焼く本格派

他の常連さんたちにもおすすめを聞いてみたが、その答えを出すのは容易ではないらしく、結局「すべてがうまい!」と返ってくる。

カジュアルな雰囲気で高級店の味、ふぐの唐揚げをいただくのもオツ

口周りが真っ黒になっても食べたい、旨みたっぷりのイカスミ焼きそば

新鮮な食材が手に入る最高の立地と、どんな料理も作ることができるパパさんの腕前との夢の共演を存分に堪能させてもらったが、常連のみなさんがおっしゃる通り、どれを食べても本当に美味だった。

常連さんから優先的に
ほったらかされるシステム

ママさんとパパさん以外にも、しきりに出たり入ったりする人が数名いる。お客さんなのか、従業員なのか一見の我々にはわからない。ある人はおしぼりを持っていく。ある人はお酒のボトルを探している。またある人は本日の料理メニューをスマホで撮影してまた外へ。

常連さんは自分のことは自分でやるのが流儀

気になって後を追うと、いつの間にか店外には大勢のお客さんが座っており、その中に先ほど出入りしていた方たちの姿が。なるほど、外にはメニューがないから、自分の携帯で撮ったメニューから注文するものを選ぶようだ。
その横で、パパさんはお客さんと話し、さっきまでカウンターにいたはずのママさんも外の様子を伺いに行く。

「この店に完璧を求めるお客さんはいないの」
そう言うママさんに、うんうんと頷く常連さんたちは「僕たち、常連度が増すほど優先的に放置されています」と笑う。
料理の味も抜群だが、それと同じくらいに人を惹きつける魅力となっているのが、お客さんを特別扱いしないママさんの絶妙な距離感なのだろう。お店とお客さんとが、上も下もないおおらかな関係で結ばれ、みんなで店を温かく包んでいるのだ。

自由気ままな空の下
勝手知ったる常連さんが店を囲む

二階の調理場からたまに一階に降りてきて、常連さんと談笑するパパさん

お店を出た後で、杏香里ママにお店への思いを聞くと
「自分にとって『かねまん大井店』はパパさん、ママさんがいる大井町の実家です。同じ街でママをやっている者同士、私が行くこともあればママがうちの店に来てくれたりもする。常連さんを紹介しあったりして、いつもお互いを支え合っているような関係ですね。『かーちゃん』って言ったら、怒られるかなぁ」と笑っていた。
都心とは思えないほど自由気ままな空の下。常連さんたちの笑い声とともに、パパさんが焼くうなぎとママさんのタバコの煙が一緒に空へと上がっていく。
そんなおおらかな光景を見ていると、誰かを待つのも放っておかれるのも、まったく問題ないことのように思える夜だった。

店舗情報
かねまん大井店

住所:東京都品川区大井1丁目22-18
電話:03-3771-4221
営業時間:月・火・水・木・金・土/18:00 - 00:00
定休日:日曜日

中田周治さん

東京都内で最初にふぐ料理の認可を受けた老舗「人形町かねまん」の暖簾分けの店として大井町で昭和28年に創業した「かねまん大井店」の3代目店主。店の看板はふぐ、うなぎ、串料理だが、自分が食べたいものを作っているうちにメニューが多様化し、今では大井町の老若男女の胃袋を支える存在に。

ライタープロフィール
伊藤 璃帆子
コラムニスト・写真家として活動するマルチコンテンツプランナー。ケータリング店「SESSION」を運営。