中村茂幸さん
Nakamura Shigeyuki
五島列島マルシェオーナー
五島列島最大の島・福江島出身。大学進学のため上京し、そのまま都内で就職。2021年、故郷の応援をすべく、五島列島の物産を販売するネットショップをオープン。2022年から東京都港区にて実店舗である五島列島マルシェを運営。
今回お店を紹介してくれるのは、五島列島マルシェのオーナー・中村茂幸さん。中学卒業まで長崎県西部に位置する福江島で過ごし、現在は東京都内で五島列島の物産を扱うショップを運営している。そんな中村さんが行きつけとして教えてくれたのは、神田にあるカウンター8席のバル「bi-go」。中村さんが馴染みになったきっかけやお店の魅力を紹介するとともに、なぜ100年続いてほしいお店なのか、その理由を伺った。

五島列島の恵みが織りなす縁

神田駅から徒歩3分。賑やかな駅前から少し離れた場所にある「bi-go」

中村さんと尾崎さんが出会ったのは、尾崎さんが独立前に働いていた店。五島列島の魚介と熊本の酒を提供するバルで店長をしていたのが尾崎さんで、その店に魚を卸していたのが中村さんの友人だったという。
その後、尾崎さんは五島の食材を扱うバル「bi-go」をオープン。中村さんは自身が手掛けた五島列島オリジナルビールを店に卸すことになった。
ビジネスで出会い、仕事の取引先という関係だが、尾崎さんの店は中村さんにとって遠く離れた故郷の魅力を人に伝えるための場所でもある。

「尾崎さんとの付き合いは、もう12、3年。店主と客としてだけでなく、ざっくばらんにいろいろなことを話します。どんなことを話すかって、少子高齢化の話とか———というのは冗談で(笑)。五島の情報やメニューの話をすることもあるし、プライベートでも一緒に五島に行ってマラソンに出たりもします」と中村さん。
週に1、2度「bi-go」でお酒を飲みながら人と話す。一人のときもあれば、友人やお客さん、五島出身者、五島に興味がある人などを連れてくることも。店はいつも五島列島と尾崎さんの人柄に魅了された常連たちで賑わい、初めて来店する方でも打ち解けやすい雰囲気を作ってくれるという。

バラモンビールで乾杯する尾崎さんと中村さん

“五島列島LOVER”なお客さんを唸らす
青森出身の店主による絶品創作料理

「bi-go」は食材とお酒を五島列島のものにこだわっているとのことで、てっきり店主の尾崎さんも五島の出身かと思いきや、実は青森出身だ。
自身の故郷に関係する店にしようとは思わなかったのだろうか。尾崎さんは「そう思ったことは一度もないですね」ときっぱり。
ビール好きが高じて飲食の道へと進み、勤めていたバルで五島の食材に魅了され、独立する際には五島食材を店の売りにすることを決めたという。


「五島列島の食材はどれも本当に美味しい。『bi-go』ではアオリイカという東京では珍しい高級イカを主力メニューのひとつにしています。歯応えと甘味を引き立たせるために、塩で食べてみてください。その他、キビナゴ、五島豚、五島うどんなど、すべてが美味しいです」と自信をのぞかせる。

五島から取り寄せる新鮮な魚介が「bi-go」の名物

五島うどんはアゴ出汁を合わせるのがスタンダードだが、細麺で伸びにくい特徴を活かした創作メニューも人気。モチっとした食感のうどんに濃厚な卵黄とチーズが絡むカルボナーラうどんは、言われなければうどんだと気づかない人が多いはず。

一見パスタのように見えるこちらは、五島うどんアレンジメニューのカルボナーラ。細目のうどんで伸びにくいため、パスタと同じように調理しやすいそうだ。

「bi-go」はおひとり様客が多いが、五島牛ホルモンの鉄板焼きは、おひとり様でもおかわりするほどの人気メニューだ。
五島の恵まれた自然環境の下で飼育され「幻のブランド牛」と称される五島牛は、赤身と脂身のバランスが良く、やわらかい肉質と口の中に広がる旨みが特長。その五島牛ホルモンがたっぷり入った鉄板焼きは、たしかに後を引く美味しさだ。

それを「バラモンビール」を合わせて、さらに食欲を倍増させる。
中村さんが自ら手掛けた「バラモンビール」は五島のレモングラスを使用したHazy IPA。世界中で「バラモンビール」の樽生が飲めるのはこの「bi-go」だけなのだそう。
しっかりとコクがありながらもフルーティ。柑橘を思わせる爽やかな香りが感じられる。
こってりとしたホルモンの油分をすっきりと流してくれるバラモンビールの効果も相まって、あっという間にホルモンもバラモンも空になりそうなタイミングでホルモンの鉄板を調理場へ戻す尾崎さん。
「これに五島うどんを足すのも美味しいのですよ」

五島ホルモンの旨みたっぷりの脂に五島うどんを絡ませ、卵黄を落としたアレンジメニュー。
これはこれは。ビールもおかわりしなくては。

五島を愛するファンたちが
夜な夜な集まるセカンドハウス的存在

尾崎さんにお店をやってきて良かったと思えるエビソードを伺うと、常連さんとの絆の深さが感じられる話を聞かせてくれた。
「店の営業を開始してから、お客さんが0人だったことは一日たりともありません。台風で大変な日もあったけれど、心配して遠方から来てくれた人もいました。3年間、ほぼ毎日通ってくれたお客さんもいて、その方が故郷へ帰ることになったときには常連さんみんな集まって送り出しました。店と常連さんというつながりだけでなく、常連さん同士のつながりも深いです」と嬉しそうに微笑む尾崎さん。

「長崎や五島に縁がある人や、五島が好きで旅行している人が通う店なので、五島について知りたい、行ってみたいという人がいたら『bi-go』に連れてきます。東京で、五島の出身者や旅行者の話を聞ける場所はなかなかないはずです」と中村さん。
中村さん自身にとっても「bi-go」はなくてはならない存在。ものを売っている立場として、言葉だけでは説明できない味、島人の人柄、雰囲気を知ってもらえる重要な場所なのだ。

東京から五島の島々に橋をかけて

「常連」と聞くと、店の近所の人が大半であるはずだが「bi-go」の場合、近隣の人より長崎県や五島列島をこよなく愛する人たちがはるかに多い。
尾崎さんに「bi-go」が目指している形を伺うと、
「お家の次に安心できる場所。セカンドハウス的な立ち位置でありたい。十数年、その思いで店に立ち続けています。営業時間は、お客さんが全員帰るまで。閉店だよと言っても、みんななかなか帰らないので、店に泊まることもしばしば。どこでも寝られる体になってしまいました」と笑った。

なぜ、この店にこれほど五島のファンが集まるのか。それは列島が個々の島として独立していることが理由のひとつかもしれない。
五島列島はひとくくりで考えられがちだが、実は152もの島があり、行政区も4つに分かれている。同じ列島出身でも、他島で交友関係を持つ機会は少ない。そんな中で隣島の出身者と知り合うことができるのが、東京は神田にある「bi-go」なのだ。
五島列島に興味を持ったら、まずは「bi-go」へ行ってみよう。
東京にいながら五島列島をリアルに体験できるこの店は、153番目の離れ小島のように今日も五島を愛する人々で賑わっている。

店舗情報
小さな五島バル bi-go(ビーゴ)

住所:東京都千代田区神田北乗物町18-5 ダイユー神田 1F
電話:03-6822-6674
営業時間:17:30〜深夜0時
定休日:日曜 月曜

https://www.instagram.com/chisanagotobar/

尾崎孝高さん

小さな五島バル「bi-go」の店主。渋谷のアイリッシュパブと新橋の五島列島バル勤務を経て、2020年に独立。タイ料理屋を間借りしてバル営業をスタート。2022年7月に店舗を買い取り、現在に至る。青森県出身だが、島のマラソン大会に出場するほどの五島好き。

ライタープロフィール
伊藤 璃帆子
コラムニスト・写真家として活動するマルチコンテンツプランナー。ケータリング店「SESSION」を運営。