敦賀零さん
Tsuruga Rei
脚本家
1988年10月13日生。青森県青森市出身。東京芸術大学大学院映画専攻脚本領域修了。
企画・脚本を担当した映画「ココでのはなし」が第39回ワルシャワ国際映画祭をはじめとする海外映画祭で上映。同じく企画・脚本担当の映画「LIKE THAT OLDMAN」が第15回下北沢映画祭にて三冠。2024年8月現在、原作担当漫画「ニュートンを抱いた女 」が連載中。
今回お店を紹介してくれるのは、数々の映画や舞台、ドラマやアニメなどさまざまな脚本を執筆している脚本家の敦賀零さん。敦賀さんが紹介してくれた行きつけは、サブカルの聖地・中野にある叉焼専門ラーメン店「福籠叉焼」さん。中野に長年親しんでいる敦賀さんが、この店に通い続ける理由を教えてもらった。

熱量の高さに感動
応援したくなる店

「福籠叉焼」は、水道橋の有名ラーメン店「八咫烏」と、同じく人気ラーメン店の祖師谷大蔵の「鶯屋」がプロデュースしたお店。もともと八咫烏の常連だった敦賀さん。「福籠叉焼」と出会ったのは、関係者からプレオープンのイベントに招待してもらったことがきっかけだった。場所も家の近所ということもあり、以来行きつけとして通い続けている。

JR中野駅から徒歩10分かからない距離にある店は、白を基調としたシンプルな装い。店内にはカウンター席とテーブル席が数卓あり、厨房での調理風景も見ることができる。

しかし、行きつけになった理由は関係者とのつながりだけではない。料理のおいしさや店の雰囲気もそうだが、何よりも魅かれたのは店を運営する人たちの熱量の高さだったという。
「過去に、商品開発の現場に呼んでいただいたことがあるんです。料理を作って食べて、意見やアイデアを出し合いながら一つのメニューを作り上げていく。そんなクリエイティブな現場を目の当たりにして感動しましたし、『これだけ頑張っている人達だったら、応援せなあかん』と思いました」
それから、敦賀さんには店に通うようになって気付いたことがある。それは、店が常に味のアップデートをしているということ。同じメニューでも行くたびにさらにおいしくなっている。何が変わったのかは明言できないものの、味を通して店側の日々の研鑽を確実に感じられるのだという。それを発見する楽しみも、店に通い続ける要因の一つになっている。

「ここでしか出会えない」
独創的なメニューの数々

敦賀さんのお気に入りメニューの一つ「魯肉炒麺」。麺が鉄板の上に載っており、塩だれとオイスターソース、ゴマの風味が効いている。期間限定メニューとなっており、季節が変われば他のおいしいメニューが登場する。

また、これは店の特徴でもあるが、一般的なメニューであっても他店とは一味違う、独自のスタイルで提供されるのもこの店の面白い所だと敦賀さんは言う。
「『エビチリ』は鉄板にのった揚げワンタンのエビの上にチリソースがかかっていたり、鶏モモ肉が丸ごと1個ラーメンにのっかっていたり、時期になると恵方巻を販売していますしね。他にもかけラーメンにのせるチャーシューを数種類の中から選べたり、この店でしか出会えないスタイルなんですよ。他店とは違うオリジナリティが感じられる点もすごく気に入っています」

チャーシューを使ったサンドイッチなどのユニークなメニューも。チャーシューにクリームチーズとポテトサラダがベストマッチ。

敦賀さんの推しメニューの一つ「ポテトサラダ」。出汁で炊いて下味をつけたジャガイモに少量のマヨネーズ、塩と砂糖を入れたシンプルな一品。卵は敢えて別添えで提供し、混ぜ合わせるとポテトサラダになる。

そんな独創的なスタイルのメニューを作り出す店主の鎌倉良行さんは、実は和食出身。学生時代の和食居酒屋のアルバイトから飲食業界へ足を踏み入れ、焼き鳥屋や、築地市場があった時には場内の飲食店、さらに地元の懐石料理店で数年修行をし、和食の基礎を学んだ。その知識と経験を料理に落とし込んでいる。

「店のメニューには、懐石料理などの和食テイストを入れています。僕は『八咫烏』の店主の居山勢さんに出会い、今の店を運営することになったのですが、居山さんという方はいろんな店を食べ歩いて得た要素をラーメンに落とし込むんですよ。八咫烏には、いろんな試みを詰め込んだ「限定ラーメン」がありますが、あれがまさにその落とし込みから生まれたメニューなんです。居山さんも僕も、どちらかというと同じことをしたくないタイプで落とし込む発想も似ていたこともあり、お互いに持っているものを共有し合いながらメニュー開発をしています」

毎日日替わりのメニューがあることにも驚くという敦賀さん。常に「どうしたらお客さんに喜んでもらえるか」を考えていることにも感心させられるのだそう。

料理を通して伝わる
「おいしさ」への探求心

敦賀さんが「何を食べてもおいしい」と称賛するメニューの中でも、店の売り&おすすめはやはり自家製のチャーシュー。店には鶏が1種類、「和豚もちぶた」を使った豚のチャーシューは肩ロース・モモ肉・バラ肉の3種類、合計4種類のチャーシューがあり、部位によって調理法を変えて提供している。
「モモは低温調理で10時間以上、肩ロースは塊で焼きます。1日寝かしつけた後にまた焼いて、トータルで4日間くらいかけて調理しています。時間をかけた分だけ、味が凝縮するんです」

そんな旨味たっぷりのチャーシューだからこそ、味付けは極めてシンプル。肉に塩と砂糖を擦り込み、チャーシューだれに漬け込んで、乾かして焼く。10分焼いては10分寝かしつけてを約1時間半の間繰り返す。

通りに面したお店の窓に置かれているチャーシュー。外を歩いていると思わず目を惹かれる。

こだわりのチャーシューは単品で味わうことができるが、お好きなチャーシュー2種とともに食べる「かけラーメン」は店に来たらまず試してほしい一品。昆布出汁の端麗なスープに、八咫烏でも使われている菅野製麺所の平打ちの麺。そこにチャーシューをのせると、徐々に肉の油が落ちてきてスープと混じり合う。後追いのおいしさを楽しんでほしいと開発された店一押しのメニューだ。

店があることで
人と街が元気になれる

談笑する敦賀さんと店のスタッフ。「店のインスタに新メニューの告知をすると、一番に来てくれるのが先生(敦賀さん)なんですよ。ありがたいですよね」と店主の鎌倉さん。

今や店に行くことが日常の一部になっているという敦賀さん。つい足を運んでしまう理由はまだまだあるようだ。
「店員の皆さんが楽しそうに働いているのが、見ていて気持ちいいんですよね。仕事柄、僕は一日中家にこもって人に会わない、話さないなんていう日も結構あります。そんな時にお店に行って、健康的で明るい人達を見ると元気になれるんです。こういうお店があると、人だけじゃなく、街も元気になる気がします」

おいしい料理とともに元気を与えてくれる店。そんな店の店づくりの根幹にある想いを鎌倉さんが語ってくれた。
「当店のある場所は、奥渋谷ならぬ奥中野と呼ばれている場所。今や大人気のアートキャンディの専門店も生まれたエリアですし、同じようにチャーシューやラーメン、いろいろなものをこの地から発信していきたいです。そして、この街がもっと盛り上がって洒落た場所になっていったらいいなと思っています」
「福籠叉焼」の「福籠」はフクロウのこと。フクロウは幸せをもたらす、縁起の良い動物といわれている。店があることで人や街に新たな活力が生まれている現状は、店がまさに福を呼び寄せるシンボル的存在になりつつある証といえるかもしれない。

店舗情報
福籠叉焼

住所:東京都中野区新井1丁目14-14
電話:03-6454-0444
営業時間:11:30〜15:00/17:00~21:00
※日曜日のみ通し営業19:30まで
Instagram:@fulong_chashao

鎌倉良行さん

株式会社紀州鶯屋 代表。学生時代の和食居酒屋のアルバイトを経験後、焼き鳥屋や、築地市場内の飲食店、さらに地元・和歌山の懐石料理店で修行。「福籠叉焼」の他、立ち飲み屋「鎌倉酒店」、ラーメン店「鶯屋」などを運営。

ライタープロフィール
河田 早織
ライター、編集ディレクター。広告業界を中心に、言葉のある場所すべてが活動の場。実は映像制作にも興味がある。趣味は茶道。