池山千尋さん
Ikeyama Chihiro
プロデューサー
広告代理店にて営業経験後、現在はクリエイティブエージェンシーでプロデューサーとして従事。コラボ餃子プロジェクト『千餃子』辺集長。「365日餃子を食べる男」として、各種メディアでも活躍中。
今回お店を紹介してくれるのは、プロデューサーの池山 千尋さん。池山さんは、ギョーザダイエットをきっかけに2016年1月から毎日餃子を食べる活動を開始。これまでに2,700日以上、お店の餃子から冷凍餃子まで、さまざまな餃子を食べ続けてきた池山さんにとって、今や餃子は生きるうえで欠かせない存在だ。そんな餃子通の池山さんが行きつけとして教えてくれたのは、東京・乃木坂にある手作り餃子の店「蓮月」さん。池山さんがお店の馴染みになったきっかけやお店の魅力を紹介するとともに、なぜ100年続いてほしいお店なのか、その理由に迫ってみた。
「これは本当に餃子?」衝撃を受けた餃子との出会い

「今思えば、運命的な出会いだった」。そう語る池山さんが蓮月を初めて訪れたのは、今から約8年前。職場に近い餃子店をネットで検索し、偶然ヒットしたのがまだオープンして間もない蓮月だった。青山墓地もある静かな住宅街の路地の一角、隠れ家のように佇むお店。仕事仲間と店を訪れ、出てきた餃子に思わぬ衝撃を受けた。

「『これ、餃子なの?』と思うほど、信じられないくらいおいしくて。今まで食べた餃子とまったく違う。思わずテンションが上がりました」

新たな餃子との出会いに、満足感とともに店を後にしようとしたとき、持ち合わせのお金が足りないことに気づいた池山さん。お金を卸してこようと焦る池山さんに、「お兄さん、もう一回来てくれそうな気がするからツケでいいよ」と言ってくれたのが、店主の品川 祐司さんだった。申し訳なく思いながらも一旦その場を後にし、翌日お店にお金を届けにきた池山さんに品川さんから予期せぬ一言が。「餃子、食べていきます?」。ほかに誰もいなくなった閉店間際の店内。昨日感動した餃子を再び食べながら聞いた品川さんの話に、池山さんは「自分が餃子の活動を続ける原点」を見つけたという。

「品川さんが、『子どもに好きな食べ物を聞くと、だいたい出てくるのは、カレー、ハンバーグ、唐揚げ、スパゲティ。僕は5番目に自分の餃子を入れたい』という話をしてくれて。蓮月の餃子は皮がやわらかく、中には肉がぎゅっとつまっていて、タレをつけなくても味がしっかりついているんです。何もつけなくて冷めてもおいしいから、刺激物や熱いのが苦手な子どもでも食べられる。僕は広告代理店でブランド開発などに携わってきた人間ですが、品川さんの話を聞いて、信じられないくらい明確で素晴らしいコンセプトだなと思ったんです。未来の一点、具体的な状況やこども達の表情がちゃんと見えていて、具体的な打ち手も実行している。これはすごい人だなと。ここの餃子は通って食べ続けたいと思いました」

池山さんおすすめの食べ方。
1つ目はタレなし、2つ目はタレをつけて。3つ目はザーサイをのせて食べるのが池山流。餃子の肉がシュウマイのような肉で食感がやわらかいので、ザーサイのシャキシャキ感とピリッとした辛みがアクセントに。シンプルにおすすめ。たまに、店主がスライスした生のニンニクを出してくれて、それと合わせるとまたうまい。

池山さんがコンセプトごと衝撃を受けた、蓮月の餃子。餃子へのこだわりを品川さんに尋ねると、素直で明快な答えが返ってきた。

「餃子はみんなが知っている食べ物だから、そこで一番になりたいですよね。誰もが知っているからこそ、手が抜けない。だから完璧なものを作ろうといつも思っています。工場も別に作り、徹底的な衛生管理のもとで皮を含めて手作りで餃子を作っています。お店では焼くだけですが、焼くところを失敗したら台無しです。すべての想いがつまったものをお皿で出すから、おいしいんです」

品川さんが、飲食の世界に足を踏み入れたのは18歳の頃。ホテルのレストランのウェイターとして働いた後、中華料理のおいしさや、調理する姿や現場のかっこよさに惹かれ、中華の料理人になろうと栃木で修行を積んだ。職場では中国出身の料理人から点心を習い、中国へも留学。さらにラーメン屋で勤務したのち、誘われて参加した中華料理世界大会での金メダル獲得経験も持つ。そんな世界でも認められた中華料理人である品川さんが、今まで食べた中華料理の中で格別においしいと思ったのが、修業時代に食べた中国人が作った本場の餃子と水餃子。自分でも作りたいと学び始めたが、技をマスターするのに2年かかった。

「うちの餃子はカリ、モチ、ぐにゃの三段階の食感を楽しめるんです。噛んだときにぐにゃっとした触感を感じられるように、ひだの部分に厚みがないとだめで。でも、うちの皮で餃子を包むのはすごく難しい。急いでやらないと体温で皮が手にくっつくし、うまく伸ばしながらやらないと具が出てきてしまうから」

そんなこだわりの餃子に包まれているのは、白菜、キャベツ、ニラ、豚肉。豚肉と野菜は3:7の割合で野菜多めのバランスで作るため、何個食べても胸やけしない。食材もそうだが、品川さんが一番重視しているのは、味付けの順番。

「はじめに、肉に塩と片栗粉を入れて、肉汁を閉じ込める。醤油やショウガ、コショウはその後。そして刻んで絞った野菜を入れて、最後にラードを一滴。それで一日じっくり寝かせたものを包むんです。うちは特別な食材を使っているわけでもない、それが一番のこだわりですね」

世が世なら、才能あるクリエイティブディレクター?
店主のセンスが光る店づくりの魅力

衝撃の出会いから数年が経った今、池山さんの感動を裏付けるかのように予約のとりにくい人気店となった蓮月。仕事関係の会食で訪れることが増えたという池山さんが、最近気づき始めたのは蓮月という場所が作る魔力。

「ここに来るとなぜか盛り上がるし、とてつもなくご機嫌になるんです。例えるなら、みんなで餃子という火を囲んで、会話という薪をくべていくことでみんなが開放的になって場が盛り上がる感覚。みんながフラットになって、面白いことを思ったように放出していくフィールドが作れる場所なんです」

「テーブルを囲む」。それは、餃子通である池山さんの活動のポリシーでもあるアクションにも重なる。池山さんいわく、「一つのお皿でみんなで囲んで食べるという条件を満たすのが、餃子のおいしさの一つ、餃子は囲むもの」なのだそうだ。

池山さんにとって蓮月は、惹きつけられ、活力をもらえるパワースポットのようなもの。実際にその効果は絶大で、過去には長くお付き合いのできるビジネスパートナーとの出会いもここで生まれたことがあるそう。

一枚板のカウンター席とテーブル席が一卓のみの店内で、店主の様子を含め、全体を見渡すことができるテーブルの一番窓際の席が池山さんの定位置になっているのだとか。

さらに池山さんが店に通い続ける理由は場所だけではない。6品のみという潔い料理のラインナップから感じる、店主のビジネスと料理のセンスの良さも、蓮月に惹かれる理由だという。

「品川さんは、中華料理の世界大会のメダリストで料理の腕はピカ一。それにビジネス感覚がすごくある人。店では最初にピリ辛のザーサイが出てくるんですけど、ピリ辛だとお酒にすごく合うからお酒がすすむ。一杯目を飲み終わる頃に餃子が焼き上がるから二杯目のお酒にいく。そんな構成にしていると品川さん本人から聞いたことがあります。もし転生して広告代理店にいたら、素晴らしいクリエイティブディレクターになっていたんじゃないでしょうか」

池山さんを魅了するメニュー構成。品川さんに尋ねると、やはりそれは品川さんの計算と想いによって作られていた。

「メニューを6品に絞ったのは、メニューのバランスがいいから。サラダ、豚の餃子、羊の水餃子、マーボーナスが野菜。豚の炒めは肉。最後は海鮮の麺でしめる。うちはどれを食べてもメインディッシュになるんですよ。この6品を食べればおなかがいっぱいになるし、満足度も高い。食事はバランスよく食べるのが一番ですよ」

ラー油にはこだわりがある。もちろん手作り。一般的なラー油と違い、蓮月ではサラダ油からラー油を作っている。だから軽い味わい。評判のザーサイにもこのラー油を使っている。

池山さんがベタ褒めする蓮月の料理とメニュー構成。その中にはない、イレギュラーメニュー「手羽先の唐揚げ」も池山さんの大のお気に入り。店を予約すると、「池さん、手羽先の方が好きだからね」と店主が必ず出してくれるのだそうだ。※通常メニューにないため、食べたい方は事前に品川さんにご相談ください。

客を魅了する「何か」がある
これからも通い続けたい、残したい行きつけ

オープン以来予定を書き込んでいるカレンダーを見せてくれた品川さん。そんな歴史を刻む大事なアイテムとともに見せてくれたのが、お客さんからもらった手紙の数々。なかには、小さなお子さんからもらったという手紙も。

店を訪れても、店で忙しく動いている品川さんと話す時間は限られている。それでも店がメディアに取り上げられれば連絡が来るし、ときには品川さんが池山さんのテーブルへやってきて餃子について熱く語り始めることも。8年前の出会いから積み重ねた信頼を土台に、ほどよい距離感を保てる関係が心地よい。蓮月は「100年続いてほしい店」。でもそれ以上に、いま、池山さんにとって蓮月は自分の人生の研究対象の一つになっているという。

「蓮月のような場所をどうやったら作り出せるのか。椅子の高さなのか、天井との距離なのか。そういう因子みたいなものはたくさんあるんですけど、それを超えた何かもある気がしていて。『俺はやっぱり、ここが好きなんだよね』というのは簡単です。でも、こういう仕事をしているし、もし品川さんが新しい店舗を出すときは、自分の感じる心地よさを言葉に変えて、伝えたりできればなと思います」

誕生日にもらったという池山さんからの手紙を見せてくれ、「中身は二人の秘密です(笑)」と茶目っ気たっぷりに笑う。

店づくりの芯にあるのは
お客さんと同じ目線で立ちたいという想い

池山さんが知りたいと思う、品川さんの蓮月という場所の作り方。店づくりのポイントを品川さんに聞いてみると、返ってきたのは意外にも「お客さんが勝手に店を作り上げてくれる」という答え。それでも深く追求すると、「目線の高さ」という独自のこだわりが見えてきた。

「店を軽飲食にした理由は、お客さんと同じ目線で立ちたかったから。重飲食にしてしまうと、グリストラップをつけて厨房の床がお客さんの席の高さよりも一段高くなってしまうんです。同じ目線で立つことが、お客さんと一番仲良くなれる秘訣だと思っているので、ここはすごくこだわりましたね」

自分の満足のいく状態で、誰かのために好きな料理を作る日々。そんな日々について品川さんはこう語る。

「オープンしてから毎日、充実しています。仕事は本当に楽しい。日々お客さんも違うから、店の雰囲気も違って飽きないですよね。みんなに『おいしい』と言われた瞬間は本当にいやっていてよかったと思います。それに尽きますね」

高校時代になじみがあったことから、南青山エリアにあるここ乃木坂で店をオープンすることを決意。周囲からは「やるなら賑わいのあるミッドタウン方面だろう」とさんざん言われたが、覚悟を持って店を続けてもう丸9年、今や誰もが認める人気店となった。

大人数の会食でもデートでも、どんなシーンでも対応できる隠れ家的なお店。周辺にはマスコミ系の企業も多く、訪れる客の中には関係者も。営業したい人にもおすすめ。

「休むと安心できないから」と店に定休日はない。年始に少し休むのみで、2015年のオープンからずっと走り続けている品川さんに、「お客さんにとって、どんなお店でありたいか」を聞いてみた。

「中と上の真ん中くらいの位置づけで、街に溶け込んでいきたいですね。ちょっとおいしい、街の餃子屋さんでやっていきたいです」

同じ目線を大事にし、客に、街に寄り添う姿が浮かぶ店。それが蓮月。店を紹介してくれた池山さんの、言葉にできないけれど絶対にあるもの。品川さんから出てくる言葉と想いから、それが少しわかりかけたような気もする。
最後に、池山さんに、「自分にとって蓮月とは?」を聞いてみた。すると返って来た答えは「みなでギョーザを囲み、必ずととのうパワースポット」。訪れれば、料理と、人と、空間と、すべてが活力になる。もしかすると、蓮月は池山さんにとって行きつけになる運命のお店だったのかもしれない。

店舗情報
亜細亜割烹 蓮月

営業時間:平日 17時〜23時 土日祝日 17時〜21時
定休日:不定休/年末年始
住所:東京都港区南青山1-23-7 Grange南青山 101
電話番号:050-5462-3665
WEBサイト:https://gyoza-rengetsu.foodre.jp/

※餃子はお取り寄せもできます。
https://shop.rengetsu.jp/

※亜細亜割烹 新橋連月(2号店)も!
https://tabelog.com/tokyo/A1301/A130103/13294795/

品川 祐司さん

「蓮月」の店主。「ザ・キャピトルホテル 東急」スチュワード兼洋食レストランのウエイターとして従事。25歳の時サンバレー那須にて中華料理の基礎を学ぶ。39歳で独立し、中華料理のオリンピックといわれる中華料理世界大会の2012年シンガポール大会に日本代表として出場し、個人、団体共に金メダルを獲得。

ライタープロフィール
河田 早織
ライター、編集ディレクター。広告業界を中心に、言葉のある場所すべてが活動の場。実は映像制作にも興味がある。趣味は茶道。