長尾純平さん
Nagao Jyunpei
企画制作会社社長
株式会社LU.TWIYO代表取締役社長。プランニング&クリエイティブ会社を経営しながら、調布市民らの企画グループ「調布企画組」を主宰し、こども食堂や日本酒バーを提供する「紗ら+」を運営している。調布市観光協会常任理事。
今回お店を紹介してくれるのは、プランニング&クリエイティブ会社を営む長尾純平さん。調布に暮らして20年。会社経営の傍ら、調布市観光協会の常任理事や、こども食堂の運営といった地場振興にも取り組んでいる。そんな長尾さんが行きつけとして教えてくれたのは、調布駅から徒歩3分の「台北飯店」。長尾さんがお店に行き始めたきっかけやお店の魅力を伺った。

調布市民はみんな知ってる
老舗台湾料理店「台北飯店」

「20年前から月に2、3回は通っています。調布市民でこの店を知らない人はいないんじゃないかな」。そう話す長尾さんが「台北飯店」に通い始めたのは20代のころ。その当時、長尾さんの自宅から歩いてすぐ、かつて調布で最も古い商店街の一つだった「調布銀座」に店を構えていた。駅前の再開発に伴い、商店街は70年近い歴史に幕を降ろしたが、店は商店街跡地の斜め向かいに移転オープンすることになった。以前に比べ、少し手狭になったものの、地元住民や近隣で働く人たちが変わらず通い続ける調布の名店だ。

店内に飾られているのは創業時から使われていた看板。現在はオーニングに以前の看板デザインが描かれている

洋品店の跡地を改装した店内は、長い年月を経た老舗の赴きがあるが、2018年に移転してからまだ6年ほどで、以前より小綺麗になったという。
そろそろお昼の営業が終わるというタイミングで伺うと、遅めのランチにラーメンやチャーハンを頼む人、お酒を飲みながら料理をつまむ人などが出たり入ったりして常に満席。休憩時間に入るギリギリまで大賑わいだ。
「お店に来ると、だいたい知っている人がいます」。
長尾さんは一人で来ることが多いが、たまに仕事やイベント終わりに仲間を連れてくることもあるという。
店によく来るのは近くで働く人や地元の人。調布には昔から映画・映像関連企業が多く、クリエイターや役者も訪れるという。親子孫と3代にわたって通っているお客さんもいて、常連の中には、なんと市長さんまで。

「そうそう、これ。この味」
繰り返しオーダーしたくなる、あの味

長尾さんにおすすめメニューを聞き、チョウヅメ、トンソク、ニンニクの芽炒め、チャーハンをオーダーした。
「台湾料理と中華料理と、たくさんメニューがありますが、僕は同じものばかり頼むタイプなので、いつもこんな感じのラインナップです。濃いめのこってりした味を欲しているとき『そうそう、こういうのが食べたかった!』という気持ちになります」

昭和を感じる籐椅子に腰掛け、ビールで喉を潤しながら料理の到着を待つ

一皿目は、身が骨から落ちるほど柔らかく煮込まれた名物のトンソク。他店では歯応えが残るくらいの固さにするところを「台北飯店」ではトロトロになるまでじっくり煮込む。醤油と八角の香りにそそられて、一口運べば豚脂のこってりとした甘さが広がり、優しい食感に思わず笑みがこぼれる。
「トンソクは食べるところが少ないので、骨にむしゃぶりつく感じで。もう、これとご飯だけでもいけますよ。ニンニクと八角ゴリゴリのストロングスタイル。いろんなお店の豚足を食べましたが、この味が一番好きです」

長時間煮込まれたトンソクは身が骨から落ちてしまうほど柔らか

自家製のチョウヅメとニンニクの芽炒め

街中華的な使い方もできるし、八角が効いた台湾料理で紹興酒をいただくのもいい。昼と夜、一人か複数名か、シーンを選ばない店が自宅や職場の近所にあるのは、働きざかりの人にとって嬉しいはずだ。
チョウヅメとニンニクの芽をつまみながら、長尾さんは2杯目のハイボール。

仕事柄、フォーマルな店での会食が多い長尾さんだが、中華料理に限っては、いかに希少で高級か、小洒落ているかよりも、本能のままにお腹いっぱいおいしい物を食べるのが理想だという。
「僕は中華料理に変わり種を求めていません。中華料理って、イメージ通りの味かどうかがすごく重要で。脂っこくていいし、うまみ調味料もふんだんに使って欲しい。中華料理は、そういう雑さがあるべきだと思うのです」。長尾さんは、食べ盛りの青年のように純粋で素朴な中華料理への想いを語ってくれた。

初代の味を守ってる。
おいしかったって?知ってるよ

奥まった場所にある厨房からでも客のオーダーをしっかり把握する菱見さん

カッカッ、タンタン、シャカシャカ。
厨房からはひっきりなしに中華鍋の音が鳴り響いている。シメの一皿は、長尾さんが「オッサンが、ばーっと食べて仕事へ行くような味」と表現する名物チャーハンだ。お米の粒が立った昔ながらのしっとり系チャーハンは、昭和の時代から不動の人気メニュー。

常時大忙しの厨房。店主とスタッフが阿吽の呼吸で動く

昔から台湾料理と中国料理の両方を提供する中で、保健所のルールが変わったり仕入値が高騰したりで、作ることができなくなったメニューもあるというが、基本的には初代から伝えられた味を守り、作り方を変えない意志を貫いているのだそう。

菱見さんは度々「そのメニュー、本当は作りたくないんだ」という。たとえばチャーハンは、あまりに注文が入りすぎて腱鞘炎になったほどで、これ以上オーダーが増えては敵わないといってテレビの取材をお断りしたこともあったという。チョウヅメは、63度もあるカオリャンという酒を入れ、一晩寝かせてから詰めて3日間乾燥させ、ボイルして油で揚げて———といった先代のレシピに忠実に作り続けている。

店内に貼られた写真は1988年新宿南口にあった初代の店。チャーハンの味はこの店から受け継がれている

「本当は作りたくない」
そんな言葉の裏にあるのは、菱見さんが先代の味を守りながら真摯に仕事をしている事実に他ならない。
「たまに、めんどくさいと思うことはあるけれど、料理は面白いよ。単純作業じゃないから、毎日同じものを作っていても飽きないんだ。おいしいってよく言われるけど、そんなの知ってるよ」と笑う菱見さん。

地元で胃袋つかまれて。
玄関から30秒で行ける調布の台所

調布という場所は、定住する人が多く、生まれてからからおじいちゃん、おばあちゃんになるまで、ずっと市内に住んでいるという人が少なくないのだそう。常連さんの成長を厨房から見守ってきた菱見さんが「小学生のころから食べに来ていた子が、アルバイトに入ってくれるようになったよ」と嬉しそうに話してくれた。
「僕の自宅から『台北飯店』まで徒歩30秒。住んでいる場所に、こういう店を見つけられると幸せだと思います」。
長尾さんの「店を見つける」という言葉にハッとさせられる。巷のレビューを参考にするのではなく、自分の足を使って探し当てたご縁というニュアンスが読み取れるのだ。自分がいいと思うから通う。それは簡単なことのようで、この情報化社会においてはなかなか難しいことではないだろうか。
何十年経っても飽きずに人が通い続けるのは、好きなものを気取らずお腹いっぱい食べたいという常連さんの素朴な欲求と、昭和の味を守り続けるちょっぴり頑固な「たかちゃん」がいるからなのだろう。

店舗情報
台北飯店

住所:東京都調布市小島町1-34-6
電話:042-486-9986
営業時間:
月曜・水曜・木曜・金曜・土曜 11:30〜14:00 / 17:00〜23:30
日曜・祝日 17:00〜22:30
定休日:火曜

https://www.hotpepper.jp/strJ000161162/food/

菱見貴利さん

「台北飯店」の3代目店主。高校時代のアルバイトから料理の道へ進み、店を継いで現在37年目。初代から教わった店の味を守り続けている。地域密着で地元イベントにも参加することもあり、常連さんには「たかちゃん」の愛称で親しまれている。

ライタープロフィール
伊藤 璃帆子
コラムニスト・写真家として活動するマルチコンテンツプランナー。ケータリング店「SESSION」を運営。