埼玉県寄居町「今井屋」

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■今井屋のかつ丼が『タレかつ丼』であり続ける理由

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壁に掲げられた4つの料理、これが今井屋の全メニューだ。

「以前は宴会料理も含めて色々と手広く作っていたんですが、おばの『かつ丼を絶やすな』という思いもあって、今はこの4つなんです」

中でも主役はやっぱりかつ丼。「ほとんどのお客さんがこれを注文する」という一品はいわゆるタレかつ丼だ。

「確かに秩父にも老舗のわらじかつ丼のお店があったりと、かつ丼が昔からのメニューと思われているお客さんもいらっしゃいますが、これは育子が昭和30年代に始めた料理。私もおばの世話をしていた時期に、厨房でお店を手伝っていた女性から作り方を教わりました

元々、寄居町は養豚業が盛んで豚肉が手に入りやすかった場所。一般的な卵とじのかつ丼にしなかったのはこの地域の食文化や『カツそのものの味を楽しんでほしい』というのが理由です」

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1996年に発行された寄居町の飲食店案内冊子。そこには、肉料理や和食といった料理が作られていた記録が

もちろん、味の決め手はタレにある。

「タレの味は醤油と砂糖をベースに、おばが試行錯誤を重ねて作った味を変えていません。この味にお客さんがついてきているので変えてはいけないなと。前に薄味ブームもあってお客さんに意見を聞いたことがあるけど、やっぱり味を変えないことでお客さんに喜んでもらえる。それは暖簾を受け継ぎ守ることへの信念です」

お客さんには育子さんの代から通う方も多く、「おばの『甘じょっぱいカツ丼が好き』という方が多いんです」と、おじいちゃん、息子さん、お孫さんの三代一緒に来られる方や、「誕生日だからカツ丼を食べに来た」という方もいる。お客さんの心の中で今井屋の味は代々受け継がれているのだ。そんな名物料理は思わぬ一品の誕生にも派生していく。

「豚肉をブロックで仕入れると使わない部分がある。かつ丼用のお肉として切っていくと端っこを切り落とすんですが、そういう部位を大切に使いたいということで、おばが始めたのが親子丼。鶏肉ではないので開化丼のようなものですね」