埼玉県さいたま市「中華の永楽」

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■看板に目を奪われ、営業時間に驚きを隠せず

中華の永楽-07

そんな歴史を歩んできた食堂の目印はこの看板。屋号をはじめ市外局番が書かれてない電話番号、そして『誰?』と思わせるイラスト。レトロな雰囲気もあって先代の頃からの目印かと尋ねてみると「あのモデルは自分なんです(笑)」という。

「古い建物のときには親父をモデルとした看板があったんです。ここを建てるときに別の看板にしたら変に高級感が出ちゃって今のものに。まだ10年ちょいのものなんだけど、独特な感じになったなぁと」

青春を家業に捧げ、安くておいしい料理を提供し続けてきた自負を、「ウチは『高くてまずくて無愛想』だよ」と表現する一郎さん。そんな心意気で食堂を支えてきた背中を見続けてきた育弘さんが永楽を継いだのは、実は必然ではなかった。

「元々、高校卒業後は料理の道に進もうとは決めていました。専門学校を出て都内のイタリアンで働いてたんですが、親父が出前中に交通事故に遭って手術をすることになって。そのときは妹が店を手伝っていたのですが、自分がやらなきゃって決めたんです。

こうして戻ってきて20年になるけど、その頃に接客をしていた若い子が大人になって就職して帰省して、『いやぁ、食べたかったんだよ』って言ってくれる。身体に染み込んで記憶の味としてウチが愛されているのって本当に嬉しいんですよ」

親子三代で足を運ぶ常連客に対しては三代目として、若いお客さんには「自分のことをお兄ちゃんとか変な親父といった感じで慕ってくれれば」という気さくな接客も愛される理由。そんなお店の営業時間は、なんと午前11時から翌朝5時までの通し営業というから驚きだ。

「きっかけは体調が回復して親父が店に戻ってきたこと。『五体満足で助かったこの命は神様からもう一回授かったもの。奮闘して盛り上げたい』という思いで始まったものなんです。

安定軌道に乗せるために従業員を二交代制にして、最初は深夜に働く料理人たちにお金を払うのに苦労した時代もあったけど、少しづつお客さんが増えてきました。今も、冠婚葬祭で休むときに店の電気がついてないと、心配になって僕のところに連絡が来るんです(笑)」

飲んだ後の締めにラーメンを欲する身体や夜に仕事をするお客さんにとって、深夜にこれだけの料理があることはこの上なく心強く、今年で創業85年を迎えた原動力となっているに違いない。