原順子さん
Hara Junko
コーディネーター・ライター
文化服装学院を卒業し、洋服やシューズを扱うアパレル企業数社で経験を積み、最後は役付に。退職後、芸術大学でアートを学ぶなどをしながらライターやコーディネーターとして活躍中。主婦と生活社の企画「大人になったら着たい服」に読者モデルとして登場したこともある。
今回お店を紹介してくれるのは、コーディネーターの原順子さん。アパレル業界でキャリアを積み、現在は第二の人生を謳歌中。そんな原さんが行きつけとして教えてくれたのは「高円寺メタルめし」さん。決してメタルに詳しいわけではない原さんが、このお店の馴染みになったきっかけやお店の魅力を紹介する。

先入観から解放されよ。
メタル=悪魔ではない

お店に入ってすぐ目に飛び込んでくる壁画のインパクト

中央線サブカルチャー色がひときわ濃いめな高円寺。原さんがこのディープな街に足繁く通う理由は行きつけの古着屋があるからだ。アパレル業界が長かった原さんは、筆者が今まで出会ってきた中で誰よりもおしゃれな人で、ハイブランドから古着まで縦横無尽に着こなすファッションの達人である。
そんな原さんが高円寺に来るとき、馴染みの古着屋のほかにも立ち寄るお店があるという。

高円寺メタルめしの外観と看板。メタルと疎遠な一見さんにはハードルが高い

サングラスにロン毛、右手にマイク、胸にエレキギター、左手には……? 怖そうな兄さんの看板に、ほとんどの人がとっつきづらさを感じるはず。さすがの原さんも抵抗感があり、初めのうちは店の前を通り過ぎるだけで、入るまでにだいぶ時間がかかったようだ。
(「えー、あんなに可愛い看板なのに!」と店主の声が飛んでくる)
「入ってみると案外ふつうの店……というか、むしろお客さんみんな礼儀正しいし、一人客に気を遣ってくれるし、居心地がよくて料理もおいしかった」と原さん。
そこから月に1、2回ずつ足を運ぶようになり、今では遠方から訪ねてきた友人知人を連れていくことも多い。ここに来るとみんなが喜んでくれるのだという。

今ではすっかりお友達になったヤスナリオさんと原さん

原さんはバリバリ働いていた現役時代に体を壊してしまったことがあり、食べ物にはとくに気を遣っている。基本は自宅で自炊しているが、外食の時は誰が作ったのかわからないご飯は食べたくないのだそう。この店はオープンキッチンなので調理している手元が見えて安心するという。
「キッチンはいつも清潔だし、きちんと作っているなぁと思ったよ。しかも、ヤス君の料理はホッとする味で、なんとなく実家を思い出す」と原さん。

メタル好きだけど
禁煙だし、音量も下げてるし、実は北欧が好き

みなさんはこれらの絵の元ネタがわかるだろうか

目の前には「さぁ君たちにこの元ネタがわかるのか?」と言わんばかりの濃ゆい壁画がバーンと。
こちらの壁画は、店主・ヤスナリオさん(以下ヤスさん)が大ファンだという漫画家・堀道広さんに依頼したメタル絵画。一番大きな壁画は———

「最後のBurn餐」と名付けられた、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」のパロディ。Burnの意味の通り、テーブルが燃えていたり、細かく見ていくとツッコミどころが満載。元ネタはDeep Purpleの代表曲「Burn」だ。みんな裸足なのがちょっとかわいい。

ギター卸金は某雑貨店で購入したが、今は終売になりプレミアがついているとか

ヤスさんは言わずもがなのメタル好き。だからといってお客さんがみんなメタル通かというと、決してそうではなく、むしろメタルを知らない人もたくさん来るのだそう。
「メタルって怖いイメージを持たれがちですが、すべての曲が地獄の叫び〜って感じではないですよ。僕は北欧メタルといってメロディアスなタイプが好き。店は音量も小さいし、内装や食器は北欧系を意識してるし、さらに禁煙だし(笑)」とヤスさん。

ファイヤーキングも好きだというヤスさんのほっこりコレクション

このお店を始めたのは、前職の傍ら趣味で始めた料理ブログがきっかけだという。当時、料理研究家・ケンタロウさんの人気に火がついた頃で、ヤスさんはケンタロウさんに憧れて料理を始め、料理ブログを開設。それまでは母方の家業である表具屋さんを手伝っていたが、本当に好きなことをしようと思い切って料理の道へと舵を切った。

ヤスさんが出版したレシピ本たち

コツコツと料理ブログを書いているうちに出版社の目に留まり、家庭料理本を出版。2冊目は音楽と掛け合わせた本にしようということで、ヘヴィメタルと料理を掛け合わせたレシピ本「メタルめし」が完成した。
高円寺に引っ越したことを機に、実店舗「高円寺メタルめし」をオープン。もちろん、メタルの話をする人もいるけれど「爆音苦手」「タバコ苦手」というお客さんは多い。
ちなみに原さんとヤスさんは、互いの愛猫の話で盛り上がるらしい。

ほぼダジャレ!
名曲から生まれるメタルめし

黒板には新作メニューが並ぶ

ヤスさんが作るご飯の特徴といえば、メタルをパロったネーミングだ。これは元ネタがわかる人にはより楽しそうだが、きちんと注釈があるので初心者も安心(?)である。

ランチで人気の「ヘイトクルー・デスロールチキン・オーバーライス」

原さんがよく注文するというのがこちらの「ヘイトクルー・デスロールチキン・オーバーライス」。元ネタは、フィンランドのメロディックデスメタルバンド・Children of Bodomのアルバム「Hate Crew Deathroll」だ。量が多いので、原さんはいつもご飯少なめでオーダーしているそう。「初めて食べた時、何でこんなに量が多いの?って聞いたら『だってメタルだよ⁈』って返された」と笑う。
”Hate Crew Deathroll”は「憎たらしい仲間たち」といったニュアンスの意味らしい。勝手に辛い想像をしていたが、ネーミングと裏腹に、非常に家庭的な味わいだ。柔らかな鶏むね、シャキッとした水菜、ちょっとだけターメリックでおめかししたご飯。黄、ピンク、赤、緑と彩りもよい。「何これ、食べたことない味!」みたいな驚きはなく、むしろ「今度、家でも作ってみようかな」くらいの親しみやすさ。

初めての方は、ヤスさんの超絶技巧もぜひご覧ください。

ギターの形をしたチーズシュレッダーでパスタにチーズを削っているヤスさん

PANTERAのパロディ。「鎌首ナポリタン」完成。
「『高速チーズソロ!(高速ギターソロ)』って、やりたかっただけなんです(笑)」。
メニューのほとんどがダジャレから生まれており、元ネタを知っている人は「くっだらないなー!」と苦笑するそう。
以下、ヤスさんの代表作の一部をご紹介。
「マーボー・ラヴァー」
元ネタはイングランド出身ヘヴィメタルバンド・Judas Priestの「turbo lover」。それをご飯に乗せたものは「ハルフォー丼」(リードボーカルのロブ・ハルフォード)。
「和製ブラックサバ酢」
黒すりごま、サバ水煮缶、酢、とろろで作る、チビチビ系おつまみ。元ネタは、「日本のBLACK SABBATH」と称されるハードロックバンド「人間椅子」
「シイタケ・オブ・デストラクション」
シイタケにスモークカマンベールチーズをのっけてオーブントースターで焼いたメニュー。元ネタは、メタリカなどと同時期にデビューしたメタルバンド・Megadethの「SYMPHONY OF DESTRUCTION」。

この日、原さんがおつまみで頼んだのは新作の「魔王の明太Jaguar」。要は明太子ポテトサラダにクリームチーズがのったやつ。元ネタは
聖飢魔IIの創始者ダミアン浜田作曲の「野獣」。イントロで「ジャガァーーーーーーァァァアアア」と叫ぶところから名付けたようだ。

部外者出入り自由のメタル部室
合言葉は「STAY METAL!」

一般的に堂々と「メタルが好き」と言いづらい雰囲気があるそうで、多くのメタル好きは肩身の狭い思いをしているらしい。先日来たスーツ姿のお客さんは、ブリーフケースの中にメタルTシャツを入れて来店し、店内で着替えたそうだ。ちなみにTシャツはスラッシュ・メタル・バンドSANCTUARY。超マニアック。
「僕は、毎日お客さんと音楽の話ができるのが幸せだなって、つくづく感じています」
ヤスさんはいつもニコニコ楽しそうだ。
「この店は部活みたいなもので、料理好きのヤス君が部長を務めるメタル部の部室だよね。四六時中メタルの話をするんじゃなく、部外者もウェルカムで。でも最後にはみんなが『STAY METAL!』って挨拶してくれる。勘で見つけた、自分が居てもいい場所だと思ってる」と、原さんはきつねさんの形に指を立て、
「この指の形も、いまだによくわかんないままだけどね」と笑った。

ハンドサイン「メロイックサイン」。原さんがやるとキツネさんに見えるのはなぜ

店舗情報
高円寺メタルめし

住所:東京都杉並区高円寺南3-49-12 セブンハウス 1F
電話:080-7283-6219
営業時間:月・火・水・金・土・日/17:00 - 20:00
定休日:木曜日

ヤスナリオさん

三度のメシよりヘヴィメタル好き!かもしれない、自称”料理勉強家”。趣味で始めた料理ブログが評判となり、レシピ本を出版。その後「高円寺メタルめし」をオープン。雑誌、WEB、TV番組などへのレシピ提供も行う。

ライタープロフィール
伊藤 璃帆子
コラムニスト・写真家として活動するマルチコンテンツプランナー。ケータリング店「SESSION」を運営。